偽りの隣人 ある諜報員の告白のレビュー・感想・評価
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金大中が1985年に軟禁された史実に着想を得て、韓流らしいエンタメに昇華させた
イ・ファンギョン監督の映画は「7番房の奇跡」(今年7月時点で韓国映画観客動員数歴代7位)と本作の2本しか観ていないが、これらには明白な共通点がある。韓国で実際に起きた出来事に着想を得つつ、欧米の類似ジャンルの名作からエッセンスを取り込み、オリジナルの物語に昇華させる脚本の力。それに、ケレン味あふれるドタバタや泣かせる場面と、シリアスなシーンを巧みに配分する演出力だ。
先に「7番房の奇跡」に少し触れておくと、同作には派出所所長の幼い娘が殺害され、逮捕された男性が無期懲役判決ののち誤認逮捕だったことが明らかになった実際の事件がモチーフになったという。また、「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」の2作に似た要素が認められる。
そして本作「偽りの隣人 ある諜報員の告白」では、1973年に東京で拉致された事件により日本の一定世代以上にも知名度の高い政治家・金大中と彼の身に降りかかった出来事(1971年の交通事故を装った暗殺工作、1985年の軟禁など)が、野党政治家イ・ウィシクのモデルになっている。軟禁されたウィシクを隣家から盗聴する主人公ユ・デグォンが、敵対する立場であるはずの相手の暮らしぶりや内面に触れるうち共感を覚えていくという展開は、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したドイツ映画「善き人のためのソナタ」を想起させる。
日本でこの手の実話をベースに劇映画を作るなら多分シリアス一辺倒になる気がするが、そうしないのがイ・ファンギョン監督流。前半は、ウィシクの子供たちが突然訪ねてきたり、ウィシクが外出したすきに隣家へ侵入したりする場面で、盗聴班の面々のドタバタぶりが大いに笑わせる。後半はサスペンス要素が強くなるが、立場の違う者同士が心を通わせるという、韓流が得意とする情緒的なシーンもしっかり用意されている。
ウィシクのモデルになった金大中をめぐる状況は、「KT」や「KCIA 南山の部長たち」でも描かれていた。これら2作もあわせて観ると、70年代から80年代にかけての韓国の政治状況を知るのに役立つだろう。
緩急織り交ぜたタッチが徐々に効いてくる
軍事政権下の韓国を舞台にした映画は数多いが、本作があえて史実ではなく、フィクションとしてこの物語を紡ぎ出しているのは興味深い。大統領候補も、彼を盗聴する主人公も、全て架空の人物。しかし人々が当時、自由や平等、腐敗の撤廃、そして正義を、必死に希求した流れは変わらない。そこで描かれる構図は時として、とても簡略化されすぎる(悪役などの描写は特に)きらいはあるものの、その分、主人公らが自宅の敷地を越えて次第に心を通わせていく展開の重ね方はとても繊細かつ丁寧。「盗聴」や「監視」という行為が、その人権を踏みにじる悪質さとは裏腹に、本作では他者の内面をより透過して共振していくためのギミックとして際立っているのも面白い。加えて、この物語で特徴的なのは、語り口がコミカルとシリアスの狭間を行き来し、どちらに転がるか予想がつかないところ。寄せては返す波のように感情の振れ幅の広い社会派ドラマを味わうことができた。
諜報員てお給料はいくらくらいなんやろ?
上層部のやることなすこと、ホンマにえげつない。
こんな社会が本当なら生きていても楽しくないやろなと思う。
諜報機関で働くていやな仕事ではないんやろか?
陰で他人の生活や秘密を暴くような事ばかりやっていたら自分自身も人間不信に陥ったりしないのだろうか?
今回はその答えが後半にうずまいていたのではないか?
デグォンたちの行動が素晴らしかった
娘の不幸な死は必要だったのか?
重体でなんとか助かって「幸せに暮しましたとさ」に終われなかったのか?
ちょっと残念な展開も最後はうるっとさせる。
デグォンたちはその後、どんな人生を歩んだのかなあ?
それにしても韓国のこの時代は怖いなあ
ひどい作り
最近の韓国映画の質の高さを買いかぶりすぎてた。どれでもいいわけではなかった。月曜ドラマランドかと思うレベルの低さ。悪役の深みのなさ、あまりのお涙頂戴、不要なところでのコメディ、なんで諜報局の上層部が自ら殺人トラック運転してんのよ。脚本も編集も地底レベルだからムダに長いし。最後ムダに肉体美披露したのはもしかしてこれアイドル映画だったの?今後は韓国映画ちゃんと調べてから見るようにします。人生の貴重な2時間をドブに捨てました。
「シネマ de 憲法」としても優れた一本。
<映画のことば>
「無念に死ぬ者がいない世界。指導者が慢心しない世界。すべての権力が、国民によって行使される世界。そんな世界を、皆さんと共に作っていきます。」
本来は敵対側である諜報員が、対象者に感化されていくというストーリーは他作『善き人のためのソナタ』にもあったと思いますが、それだけでなく、随所に笑いを散りばめながら、その実はシリアスに現実(一頃は軍事政権が支配した韓国)の不条理、非道さも、一本の線として描き出す…。
なかなかどうして、侮り難い一本だったと思います。
そして「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。」と現行憲法がその前文で高らかに宣言したうえに、「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」とまで、念には念を入れたことの「本当の重み」を再認識するには好個の一本である点において、「シネマ de 憲法」として、素晴らしい一本でした。
ちなみに「落語」というのは、もともとは滑稽噺から始まって、人情噺に展開してきたと聞き及びますが。実際、最初から湿っぽい話、教示的・教条的な話をされると大抵は引いてしまいますが、滑稽がまじっていると、笑いで心の扉が開いたところへ、教示的・教条的な話でもすっと入り込むようで、その点が話術としての落語の「威力」なのだそうですけれども。
そういう言い方・見方をするのであれば、一見すると、気楽に観られる娯楽作にも見せかけながら、衝くべき点はちゃんと衝き(そして、その摘示は正鵠を得ている)、笑いの場面を通じながら、それが抵抗なく受け入れられる「つくり」になっているという点では、とても優れた一本であったと思います。評論子は。惜しみなく。
むろん、秀作であったと思います。
<映画のことば>
なぜ私は銭湯が好きだと思う?
ここでは、人の優劣などないからだ。
出身地がどこだろうと、与党だろうと野党だろうと。
裸になってしまえば、どうでもよくなる。
<映画のことば>
「先生、もう時間がありません。明日は危険です。」
「君には君の仕事があって、私には私の仕事がある。それぞれの仕事をすればいい。いつの日にか、きっと、一緒に食事をしよう。」
史実から作られた勧善懲悪で良い娯楽映画
実際の話にヒントを得ているものの、完全なフィクションで作られている。
韓国映画らしい、コミカルさと軍事政権下の策略や腐敗政治の汚さが程よく混ざりあっていた。庶民である主人公が最後には正義のために行動して悪を滅ぼすあたりも、気持ちよくみていられた。
1985年、国家による弾圧が激しさを増す中、次期大統領選に出馬する...
1985年、国家による弾圧が激しさを増す中、次期大統領選に出馬するため帰国した野党政治家イ・ウィシク(オ・ダルス)は空港に到着するなり国家安全政策部により逮捕され、自宅軟禁を余儀なくされた。そこから隣人を盗聴した相手との交流が始まり、大統領になるまでを描く。オダルス淡々とした演技で大統領を熱演。
一言「そっち、あっち、ええ!」。
タイトルから予想した内容と、若干違ってました。
韓国映画あるあるで。
前半は、盗聴対象者の隣に、諜報部員が本部を構え。
「あれ、盗聴してるってバレるのでは?」なコミカルさで進み。
後半はガラッと180度展開のシリアスシーンの連続。
民主派の大統領候補予定者の、暗殺を目論む軍部の動き。
「きったねーな!」を連発したくなる軍部が、憎たらしいのなんの。
諜報部員は軍部の所属。だけど前半で触れ合ったことを踏まえて。
「俺は一体、何をしたらいいんだ?」と主人公が悩み動くところが胸熱でした。
冒頭にフィクションとありましたが、思想的なところはクロスしてそうな。
政治物だけど、時に家族的なところもあり。
「観たなー」と背伸びした1作でした。
⭐️今日のマーカーワード⭐️
「私たちは“お隣さん“だろ」
なだぎ武なだぎ武なだぎ武
もう1人似てる芸人さん思いついてたんだけど名前出てこなくて上映中ずっと考えちゃってました。あと大学生の娘さんがかわいい。帰国した大統領候補も魚もいい味出してた。前に見た警察が隠れ蓑に料理屋出したら大繁盛して云々の韓国映画にテイストが似てる。
韓国映画の男の友情は胸が熱くなる
自宅軟禁なんて緊迫した雰囲気からはじまるのに、お隣さんなんてゆる〜い関係に距離が縮んでいく。
国家の圧力とお隣さんの人間味に揺れ動く、監視役の主人公の打算の無い人柄が更に良い関係を作り出す。
あんなに通じ合ったら、どんな事してでも助けたいよな。
韓国映画の男の友情は胸が熱くなる。
笑いあり、涙ありでとても面白かったです。もっと韓国の歴史について予...
笑いあり、涙ありでとても面白かったです。もっと韓国の歴史について予備知識をいれておけばもっと楽しめたと思うのでそこだけが残念・・・。チョンウさんの演技がすばらしくてちょっとした立ち姿などもかっこいいのに、面白い。オダルスさんもさすがの演技力で二人のシーンをもっともっと見たかったです。
幸せに暮らすために
私の正しさは、お隣さんに通用するの?。私の正しさを他者に強要したら、世界は平和になるの?。
緩急のつけ方が、私の好みと違う映画ですが、監視国家は、過去の話か、あるいは未来予想図なのか、選挙で決めましょ。選挙ができるうちにね。
選挙で選んだ人が、暴走することもあれば、目先の政策に賛成するだけで、先の読めない有権者もいます。それでもここは、反対票を投じた人を記録する、形だけの信任投票するクニでもないし、対立候補が一服盛られたり、不審死するクニでもありません。まして軍隊が、選挙結果を蹂躙することもないのだから。
突撃!、隣の正義さんみたいな彼。彼にとって正義とは?。幸せとは?。幸福も選挙も、大切にしなければ腐敗します。
…誰かが世界を変えられる…。その誰かとは、映画の主人公のことですか?。あるいは今日、映画を観た皆様かも知れません。
「赤狩り」
映画ではありません。マンガですが、映画好きなら確実に喰いつくはず。脚本家のトランボを筆頭に、映画の主人公クラスの人が、続々登場。疑心暗鬼が不寛容となり、不寛容が分断された監視社会へ。いつの間にか、そんな時代に逆行しているから、こうしたお話が、今になって創られるのかな。
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