「緩急織り交ぜたタッチが徐々に効いてくる」偽りの隣人 ある諜報員の告白 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
緩急織り交ぜたタッチが徐々に効いてくる
軍事政権下の韓国を舞台にした映画は数多いが、本作があえて史実ではなく、フィクションとしてこの物語を紡ぎ出しているのは興味深い。大統領候補も、彼を盗聴する主人公も、全て架空の人物。しかし人々が当時、自由や平等、腐敗の撤廃、そして正義を、必死に希求した流れは変わらない。そこで描かれる構図は時として、とても簡略化されすぎる(悪役などの描写は特に)きらいはあるものの、その分、主人公らが自宅の敷地を越えて次第に心を通わせていく展開の重ね方はとても繊細かつ丁寧。「盗聴」や「監視」という行為が、その人権を踏みにじる悪質さとは裏腹に、本作では他者の内面をより透過して共振していくためのギミックとして際立っているのも面白い。加えて、この物語で特徴的なのは、語り口がコミカルとシリアスの狭間を行き来し、どちらに転がるか予想がつかないところ。寄せては返す波のように感情の振れ幅の広い社会派ドラマを味わうことができた。
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