元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件 : 特集
珍タイトルで炎上したあの映画を実際に観てみた件
観る前→本当はシリアスで良質なスリラーなんやろなあ
観た後→ツッコミ入れて楽しめるクセ強映画じゃね~か
原題「Horizon Line」(訳:水平線・地平線)が、何をどうしたら邦題「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」になるんだよ……とのけぞった映画ファンは多いのではないだろうか。筆者もその1人だ。
とはいえタイトルが炎上したというだけで断罪し、本編を観ないというのは、映画ファンの名が廃る。これはいっちょ、映画.com編集部が内容をレビューしようじゃないの。海外版ポスターを見るに「シリアスで質の高いスリラー」という印象だったけど、実際どうなん?
そう思って本編を観始めてみた。すると事前に抱いていた印象は、開始10分ほどでガラガラと音を立てて崩れていって……。これ、ツッコミ入れて楽しめる系の映画だったよ!
「Horizon Line」が「元カレセスナ」になり炎上
映画ファンから非難殺到し改題…まずは経緯を振り返る
本題の前に。まずは炎上の経緯を振り返っていこう。
●悪魔的邦題にネット騒然
2021年6月3日AM8時、各映画情報サイトで本作の日本公開決定ニュースが掲載された。ひと際目を引き、論争を巻き起こすことになったのは、その邦題だった。
「元カレとセスナに乗ったらパイロットが死んじゃった話」
嘘、なにそのタイトル!? 理外の悪魔的邦題は圧倒的衝撃をもってSNSを駆け巡り、どうかしているくらい話題になり、各ニュースサイトやテレビ番組もこぞって取り上げていった。
話題にはなった。しかし反応の中身は、残念ながら辛辣なものばかりだった。
●映画ファンは賛3:否7 「日本の宣伝がま~たやったのか」
原題は「Horizon Line」で、アメリカでのポスタービジュアルはコレ↓。それだけに、本作への映画ファンの第一印象は「シリアスで質の高いスリラー」だったわけだ。
そんなところに「元カレとセスナに乗ったらパイロットが死んじゃった話」なんて邦題がぶち込まれたもんだから、Twitterではあちこちから火の手が上がり、体感で賛成意見は3割、否定意見は7割。「なんだこの邦題(呆れ)」「『ホライゾン・ライン』とかでよかっただろ」「悪ふざけ」「意外と好き」「こういうの禁止にしてほしい」など賛否が噴出しまくった。
さらには「良質な映画が、日本の宣伝によって変に料理された」との困惑の声も。本作、別に悪いことをしていないのに炎上したため少々かわいそうだが、映画ファンによる阿鼻叫喚はしばらく続いた。
そして同6月21日、事件が起こった。海外権利元の誤認識を理由に、邦題が「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」に変更されたのだ。これもまた「いや、そっち?」「テイストはそのままなのかよ」「てっきり原題に近づけるのかと」など、妙な感じで話題となってしまった。
【実際に観てみた】映画ファンとして確かめよう…
思ってたのと違うやんけ! 5分に1回ツッコめる!
さて本題。筆者もほかの映画ファンと同様、本作は純度の高い緊張感が味わえるクオリティ・ムービーを想像していた。だから「良質作が日本で変な感じに料理された」という困惑の声に、「なるほど確かに」と膝を打ったものだ。
とはいえ実際に観てみたところ……。思ってたんと全然違った! ここからは琴線に触れた面白シーンの一部をネタバレなしで紹介しつつ、感想を語っていこう。なおキャストなどの詳細は、映画.com作品情報で確認してほしい。
<あらすじ>
友人の結婚式のため、小型機でインド洋に浮かぶ孤島へ向かうことになったサラ。偶然乗り合わせたのは、かつての恋人で今は気まずい関係のジャクソンだった。しかし目の前に広がる真っ青で美しい海と、一面の快晴に弾む心は抑えられず、空の旅が始まる。
離陸直後、パイロットが心臓発作によって急死。自動操縦は機能せず、GPSは故障。通信機能も途絶え、前方には巨大な乱気流まで迫る。絶体絶命の窮地に、2人は“まさかの行動”にでる。
[そんなことある?①]ドラマチックに別れた元カレと再会→秒で燃え上がる
いきなりだがサラとジャクソンは、映画開始冒頭に別れる。炎よりも熱い恋を生きながら、サラは「このままではいけない」と思い立ち、強い意思でジャクソンの元から去るのだ……泣かせるシークエンスが紡がれる。
その後、結婚式の前日に2人は再会。砂浜のパーティーを抜け出して、フィジカルなコミュニケーションをおっ始める――待ってくれよ、あんなに泣かせる感じで別れたのに、そうなるの早くない?
で、この映画、まだ始まって10分くらいなのにツッコミが止まらない……! もしかして、いい意味でちゃんとしてないトーンで進むのか? と思っていたら、案の定だったので笑いも止まらなくなった。
[そんなことある?②]乱気流に突入不可避! でも素人なのにプロのアドバイスを無視します
なんやかんやあって飛行機のパイロットが急死。さらになんやかんやあってサラが操縦桿を握ることになる(操縦できたの?は本編でちゃんと説明される)。
最初の災難は「乱気流を突っ切らないといけない」。管制塔は稲妻がビカビカ走るこの雲海の先に、島があるはずだと言う。サラたちは「いや死ぬだろ」と戦々恐々だ。
「とにかく突っ切れ! 大丈夫だから!」。管制官はナイスなアドバイスを繰り返すが、サラはなんとこれを半分、無視する。「乱気流の上は青空よ!」みたいなことを言って、勝手に高度をぐんぐん上げていく。
おい! 素人が自分の考えで無闇に行動するなよ! 隣のジャクソンも「こいつマジか」みたいな顔で引いている。結論から言うとサラの思惑はめちゃくちゃ外れ、方角がわからなくなるなど、さらにまずい状況へ陥っていく。言わんこっちゃないな。
ていうか、想像していた内容とぜんぜん違う……! そう気がついた僕だったが、同時に「これはこれで、なんか楽しくなってきた」と奇妙な快感を覚えていた。
[そんなことある?③]やばい燃料が切れそう! ラム酒ならあるぞ! でもタンクは翼に! どうする!?
スクリーンに「そんなことある?」とツッコミを入れながら観ていると、予告編にもあった“あのシーン”がついに登場した。
高度数百メートルで、燃料が底をついてしまう! もうお終いだ……と諦めかけていると、ジャクソンが天才的なひらめきを口にする。「ラム酒を積んでただろ、あれは燃料になる!」。そうなの? 当たり前みたいに言ってるから、きっとそうなんだろう。
しかし、もうひとつ問題がある。燃料タンクは翼についていて、機外に出ないととても手が届かないのだ。今度こそ終了やんけ……が、サラは意を決した表情でドアを全開に。「まさか」と思った瞬間、素手で機体にしがみつき、ゴリゴリとよじ登りはじめた。
いや「ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」でトム・クルーズが死にかけながらやってたやつ~~~~!! 知恵とか機転とかじゃなく、シンプルに肉体でなんとかしようと頑張っているが、果たしてどうなる? 吊り橋効果で燃え上がる2人の恋の行方は? 続きは映画館で確かめて!
[結論]変化球ゼロ、清々しいほど剛速球が連発! 楽しく鑑賞できました
実は上記のほかにも「マジ?」となるシーンが盛りだくさん。海外版の深刻そうなタイトルやポスターから“品質の高い映画”を想像していたが、観てみると「ツッコミ入れて楽しめるクセ強映画」に感じた。
例えるなら、洗練された無駄のないパワープレーの連続。格式高い蕎麦を待っていたら、実際に出てきたのはラーメン二郎で、これはこれで好き、みたいな感覚だ。……より混乱させてしまったかもしれないが、何が言いたいかというと、むしろ陽気な日本版タイトル&ポスターのほうが、内容をより的確に表現しているとすら思った。明るいからこそ恐ろしいこともある。
正直な話、嬉しい誤算の連続で、終始楽しく鑑賞することができた。「タイトル(笑)」と小馬鹿にしてスルーするのはもったいない、観れば期待以上の体験が味わえるはず。この夏、スクリーンにツッコミを入れながら、ぜひ。