「ノイズ渦巻く人間模様に気を付けよ…」ノイズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ノイズ渦巻く人間模様に気を付けよ…
再びベストセラーコミックを基に、藤原竜也と松山ケンイチが『デスノート』以来の共演。これだけで見たい!…と思った。
さらに藤原と『るろうに剣心』で共演している神木隆之介も参戦。
話も面白そう。人間の暗部があぶり出されるかのようなヒューマン・サスペンス/ミステリー。
見応えたっぷりの今年最初の邦画の期待作!…であった。
率直な感想。
つまらなくはなかった。それなりに見応えはあった。
しかし、期待したほどでは…。これについては追々と。
あたかも正常音と雑音/不協和音入り交じるような、良かった点もあれば難点も多々の何とも言えぬこの感じ。
正常音(良かった点)。
設定や話はいい。原作コミックから脚色もされているようだが…。
本島からぽつんと取り残されたような孤島、猪狩島。のどかで事件など何一つ起きない平穏な島だが、長年過疎化に苦しめられていた。
そんな猪狩島は最近、黒イチジクの生産で全国ニュースで取り上げられるなど注目を集め、それが高く評価され、国から“地方創生推進特別交付金”として5億円の支給が内定し、島民は島の発展と明るい希望に沸きに沸き上がっていた。
その黒イチジク生産を始めたのは、島で生まれ育った青年、圭太。幼馴染みで手伝ってくれる猟師の純、圭太の妻・加奈と幼い娘・恵里奈。
圭太と純と加奈は早くに親を亡くし、この島と島民たちに育てられた。
島が俺たちの全て。島を守っていく。その為だったら…皮肉にも。
原作コミックでは限界集落らしいが、孤島にした事により孤立感が際立つ。また原作コミックでは圭太は妻子と離婚調停中らしいが、仲睦まじい家族。もう一つの守りたいもの。そして、そんな幸せ彼らに密かに視線を送る者…。
島只一人のベテラン駐在員が島を去る事になり、着任してきた新人駐在員の真一郎。元々島生まれで、圭太と純の弟的存在。
前任者と入れ替わり直前の勤務初日、老人の運転する車が野生のイノシシと衝突事故。届け出をしなければならず、真一郎は真面目に行おうとするが、先輩は事を穏便に済ます。
免停にでもなったら島での生活は困難。真面目もいいが、島や島民を思い、時には忖度も必要。“かさぶたになれ”。
その言葉を胸に深く受け留める真一郎。
それは正しかったのか、履き違えだったのか…?
後の彼の精神の重荷になる事に…。
人物設定や物語の入りは悪くない。
そんな3人の前に立ち塞がった人物と事件…。
島に現れた一人の男。一緒に来た中年男性を突然殺害。
島をうろついている所を、圭太と純が目撃。不審がる。
恵里奈が行方不明に。探している途中、圭太は黒イチジクのビニールハウスに例の男が居るのを見つけ、問い詰める。純と真一郎も駆け付ける。
激しく揉み合いとなり、圭太は過って突き飛ばし、男は打ち所が悪く絶命してしまう…。
人を殺してしまった…。
動揺する3人。
出頭しようとする圭太。正当防衛が認められるかもしれない。
反対する純。そんか事をしたら島もお前もお前の家族も終わり。畜生ッ!これからって時に…。
そこで真一郎が思い付く。“かさぶた”。
3人はこの死体を隠し、何事も無かった事を決める。
こんな何処の馬の骨か分からない男を探しに来る奴なんて居やしない…。
本島から二人の刑事がやって来た。
消息不明となった中年男性の行方を、娘から依頼されて。僅かな手掛かりから足跡を追い、この島に。
素性が判明する。
中年男性は受刑者保護司。
そして男は、元受刑者。幼女強/姦殺人犯。
圭太の黒イチジク農園へ就職を求めに伺いに来た矢先の事だった。
戦慄するも、知らぬ存ぜぬを決め込む3人。
イカれた殺人犯が一人死んだくらい…その考えが愚かだった。
中年男性の死体が発見され、殺人事件に。
本島から警察が続々とやって来て、未だこの島に潜んでいるであろう男の捜索が開始。
死体を隠し持っている3人は…。
島の平穏が崩れ始めていく…。
死んだ男の存在は、島にとって“ノイズ”。
これがきっかけとなり、島の“ノイズ”があぶり出されていく…。
3人が死体を運んでいる場を目撃した老人。
その老人からこの一件を聞き出した町長。とんでもない提案を言い出す。
真一郎が正当防衛として罪を被る。圭太には島を出てって貰う。
黒イチジク農園は私が引き継ぐ。誰がやったって同じ。黒イチジクは交付金を貰う為だけにあればいい。全ては島の為…いや、交付金の為か。
町長は部下にも威圧的なパワハラで、腹黒い。
受け入れられる筈などない3人。
そこへ突然乱入してきた老人。町長と揉み合いとなり、両者は死亡。
老人は絶命寸前、この島を守ってくれと言い遺す。
3人だけではどうしようもなくなり、島民たちにも事情を打ち明け協力して貰う。老人の息子夫婦、医師…。口裏合わせ。
皆、島を守る為…と言ったら聞こえはいいが、余所者は敵という仲間内だけの狭い連帯感。
傍目は平和で人も良さそうだが、その実は、黒い人間模様。
これらもある意味、“ノイズ”。
刑事・畠山が皮肉的に言い放った「滅びゆく町」に、哀れかな同調してしまった。
藤原×松ケン×神木のケミストリーはさすが見応えあり!
藤原は堂々としたリーダー格。
松ケンは人の良さそうな性格の中に、複雑な内面。
神木は今にも心折れそうな若輩者。
各々の役柄がイメージにもぴったり。
他キャストでは、
黒木華は田舎の若妻がハマり過ぎ、何の違和感も無くナチュラルに溶け込み過ぎってくらい。
パワハラ腹黒町長の余貴美子の嫌悪、事の発端である殺人犯の渡辺大知のキチ○イっぷりはインパクトあり。
それから序盤のみだが、珍しく眼鏡を掛け穏やかな性格のベテラン駐在員の寺島進も良かった事を追記しておきたい。
…と、まあ、良かったと素直に言えるのはこれくらいかな。
題材/設定、キャストの演技、物語は中盤くらいまで。
後は…
雑音/不協和音(イマイチな点)。
多くの方が言っておられるように、難点やツッコミ所が目立つ。
まず思ったのは、冒頭。殺人犯が保護司を殺害するが、保護司もちと無用心じゃないかい…?
畑のド真ん中に保護司の死体と車を放置。丸一日誰も気付かないの…?
本題の3人による殺しと隠し。余りにも浅はかな後処理。…まあ、彼らの愚かさを表しているのであれば。
町長の死体の偽装も安直。
永瀬正敏演じる刑事・畠山。早々と3人に目を付け、追い詰めていく“名刑事”のようだが、実際捜査らしい捜査してないような…? 俺は初めから分かってる…みたいな。時代錯誤な典型例な昭和刑事ムードがちとこっ恥ずかしい。
話も中盤くらいまでは悪くなかった。
開幕から不穏なサスペンス雰囲気。
3人の動向、あぶり出される黒い人間模様のコミュニティー、ボロや粗が手始め、運命の歯車が狂っていく…。
自分が犯した事に耐えきれなくなった真一郎は、あるビデオ映像を遺し、自ら命を絶つ…。
そこまで見応えあり、話的にもそうブレていなかったと思う。
だけど、それからが…。
終盤、もう一つの“ノイズ”。思わぬ人物が…。
子供時代のエピソードでそれとなく“仄かな想い”は挿入されてはいたが、何と言うか、あれほどTVの番宣などで“絶対ネタバレNG!”なんて大々的に言ってた割には、そういうオチかと…。“新感覚サスペンス”には失笑。
期待外れ…とまでは言わないが、期待していたものと違った。
ちょいと辛辣に言ってしまうと、どんな作品だった? どんなオチだった? ズバリ感想は?…と聞かれても返答に困る。
一応の終結だが、釈然ともしなかった。
観たのは数日前。仕事とか忙しくて、ようやくレビュー書き終えたけど…
何だかもう、作品自体うろ覚え…。
私の頭の中こそが“ノイズ交わり”だった。