劇場公開日 2021年10月8日

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「必ず迎えに行く。あの日、あの人はそう言った。」ONODA 一万夜を越えて 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5必ず迎えに行く。あの日、あの人はそう言った。

2021年10月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

当時、僕はおそらく7歳で、この大ニュースのことはおぼろげながら覚えている。フィリピンのルバン島(あえて当時の表現で)で、終戦後もおよそ30年近くにわたって戦闘状態を続けていた残留兵、小野田少尉。どれだけ戦争は終わったのだと呼びかけても、容易に信じない姿は滑稽にも映る。ただの意固地にしか見えない。だけど、彼は本気だったようだ。ラジオから得られる情報も信じず、どうやら、日本の亡命政権は満州にあって、当時の日本の繁栄はアメリカの傀儡政権によるものだと思い込んでいたという。とっくに戦争は終わっているのに友軍来援をひたすら待っているなんて、こうなりゃもう喜劇の類であり、まじめに言えば、戦時中の二俣分校での洗脳教育がいかにすさまじいものであったかを裏付けるともいえた。
青年期の小野田少尉を演じた遠藤雄弥がことのほかいい。精悍で、思慮があり、強靭な意思をもつキャラクターを体現していた。おかげで、ともすればただジャングルを隠れ廻っているだけの映画になりかねない話に、緊張感が保てた。なにせ、3時間近くの長丁場、ダレてもおかしくなかった。戦後70年を過ぎ、太平洋戦争がらみの映画は随分と出尽くしたと思っていたが、最後の最後に、最後の残留兵が残っていた。

鑑賞後、仲野太賀演じる青年が気になった。彼がいなかったら、小野田少尉はまだジャングルに潜伏していただろうからだ。彼の名は、鈴木紀夫という。劇中、「パンダ・小野田さん・雪男に会うのが夢だ」と話すしていたとおり、そののちは雪男を見つけるために何度もヒマラヤへ赴き、結局遭難死、享年37歳という若さだった。彼の死に接した小野田は、「友人の死は残念」と述べている。彼を友人と呼ぶほどの信頼があったのか、と図らずもグッときた。のちに小野田は、慰霊のためにヒマラヤを訪れているほどだ。バックパッカー時代の放浪記も破天荒なこの鈴木青年の物語、ちょっと興味が湧いた。

栗太郎