「食われてしまったアンジー」モンタナの目撃者 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
食われてしまったアンジー
テイラー・シェリダンの新作と聞いて見た人はがっかり、アンジーの新作と聞いて見た人はまあ納得な作品。良くも悪くも普通のサスペンス映画。山火事を扱ってはいるが、「オンリーザブレイブ」のような山火事に対する恐怖感はない。山火事映像はCG丸出しだしね。ストーリーも極ありふれたもの。特筆すべきは子役の演技力と脇役の妊婦の意外な活躍。これは作品が出来上がってアンジーはクレームつけなかったのだろうか、完全に脇役の彼女に食われてるけど。そこがアンジーの器のでかさなのか。
監督があの「ウィンド・リバー」の監督と聞くとハードルが上がるだけに、それを期待して見た人の多くは失望しただろう。本作は公開時の評判の悪さがそれを物語っていた。
なるほど、アンジー主演のただのサスペンス映画なら及第点、しかし、監督の作品にしたらかなりの凡作といえるだろう。今回は雇われ監督に徹したのかな。
山火事を扱っただけで特に深いメッセージ性もない。ウィンド・リバーのような社会派作品を期待するとかなりがっかりさせられる作品ではある。
今回配信にて鑑賞したからそれなりに楽しめた。娯楽作品として普通に見るなら及第点。
ストーリーはこれまたよくあるお話。過去のトラウマを背負った主人公が守るべきものと出会いそのトラウマを克服するという。
おそらく犯罪組織の罪を告発できる情報を握る父親が殺されその息子も命を狙われる。主人公は山火事の驚異と殺し屋からその子を守ろうとするが。
意外にも脇役であるシェリフの奥さんが大活躍でアンジーを完全に食ってしまった。正直言って彼女のせいでアンジーの本作での存在感が弱まったのは否めない。
また娯楽作品では必須の悪役二人組、序盤から中盤まではなかなかのプロフェッショナルぶりで見ていて悪役としては頼もしいと思っていたが、妊婦にしてやられたあたりから徐々に間抜けぶりを露呈しだす。
アンジーたちが立てこもる監視塔を襲撃する場面。一人が遠距離射撃で攻撃してもう一人が監視塔の下で待ち伏せするのが当たり前のところ二人とも同じ離れた場所から銃撃してまんまと監視塔から逃げられる。雇い主が予算をケチったせいで彼ら自身も追い詰められていたという事情もあり同情はするけど、その挙句に妊婦にやられるとは。いやこれこそ母は強しか。結局本作で一番よかったのはアンジーでも山火事でもなくあの妊婦さんだったな。ニコラス・ホルトの悪役ぶりはなかなか良かったけど。
山火事は今や地球温暖化の状況下では深刻な問題だけど、本作ではあくまでもネタとしか扱っていない。また山火事の恐怖を描いた前述の「オンリーザブレイブ」と見比べてもその描写はかなり見劣りする。
どうせ娯楽に徹するのなら、悪役を軍隊並みに増員して主人公たちが森で取り囲まれた時に悪党どもをうまくけむに巻き、風向きを読んで悪党全員を火の海に誘い込んで一網打尽にするみたいな結末にすればかなりカタルシスを得られたと思う。
アンジー演じる主人公がかつての山火事で多くの避難民が炎に巻き込まれた光景がトラウマの原因になっていたのだから、そうやってあえて彼女を同じ状況に追い込んでエクスポージャー療法で彼女のトラウマも克服できて一石二鳥の結末にできただろうに。