劇場公開日 2021年9月3日

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「シェリダンの森はエンタメ深く」モンタナの目撃者 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5シェリダンの森はエンタメ深く

2022年2月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

興奮

『最後の追跡』『ボーダーライン』の脚本で注目を集め、『ウインド・リバー』で監督デビュー。今最も確かな映画作家、テイラー・シェリダン。
その監督第2作目ともなれば、スルーする理由は無い。

手掛けた作品には特徴あり。
西部劇タッチ、国境間の麻薬カルテル、ネイティブ・アメリカンと無法地帯…。
辺境を舞台にし、現代アメリカが抱える暗部を抉り取る、“フロンティア3部作”と括られる社会派アクション・スリラー。
エンタメ性とテーマ性が見事に融合。その手腕や作風はどれも外れ無し!
今回の題材は、森林消防。
モンタナの大自然を脅かす大規模山火事、それに立ち向かう隊員たち。
隠れた傑作『オンリー・ザ・ブレイブ』を彷彿させながらも、シェリダンらしい自然破壊への訴えと決死の隊員たちの姿…と思ったら、
意外にも今回は変化球…いや、直球?

これまでの作品と比べると比較的、エンタメ寄り。
強烈な社会派色のシェリダン節を期待すると肩透かしかもしれないが、そこはアクション・スリラーの名手。今回も面白味は充分。
単純に一つの話として見てもいいが、複数のエピソードと登場人物が織り成すアンサンブル劇として見た方が重層さが増すかもしれない。

森林消防隊員のハンナ。かつては第一線で活躍していたが、今は監視塔勤務。
彼女が抱えるトラウマ…。かつて起きた山火事で、風向きを読み間違い3人の少年を救助出来ず、犠牲に…。今も彼女を苦しめる…。

ある父と息子。何かから逃げる父を息子コナーは不審に思う。
その父が何者かに殺される。しかも、目の前で…。

会計士だった父。“正しい事”の為に“ある秘密”を隠し持っていた。
もし、それが知られたら…。“マズい立場”になる人物や組織が。
狙われる。秘密の抹消だけに留まらず、自身の命も。逃げる。
消せ。“ある組織”から依頼を受け、二人の暗殺者が追う。
目的の為なら人を殺める手段も厭わない冷酷な二人だが、彼らも“上”から圧力を掛けられる身。失敗したら…。
目的は遂行。が、思わぬミスが…。
父は“秘密”を託し、息子を逃がす。
秘密を知り、殺人の目撃者ともなったコナー。独り心細く、森の中を逃げさ迷う…。
相手が子供だからと言って逃がしはしない。執拗に追う。

父と知り合いである地元の警官、イーサン。妊娠中の妻アリソンがいる。
暗殺者は父の足取りを追い、夫妻に行き着く。妻に魔の手が…。
イーサンも殺人事件として暗殺者を追う。
巻き込まれた警官夫妻の運命…。

森をさ迷っていたコナー。
偶然、ハンナと出会う。
経緯や事情を知り、彼を匿う。町に向かう。
暗殺者は暴挙に出る。警察を撹乱し、二人を追い詰める為に、山に火を放つ。
あっという間に火に包まれ、大規模な山火事に…!

暗殺者、陰謀、山火事…。
迫り来る脅威は一つじゃない。
それらから少年を守り切る事が出来るか…?
アンジェリーナ・ジョリー、『ソルト』以来実に11年ぶりとなる本格アクション。
時にトレジャー・ハンター、時に銃弾を曲げる凄腕暗殺者、時に敏腕スパイ…。
当代屈指のアクション・ヒロインとして様々な危機と対してきた彼女にとって、難な事はない…?
否! これまでのような強いヒロインとは違って、心に傷を追う“普通”の女性。
男どもを一蹴するパワフルなアンジーを見たい人にはちと物足りないかもしれないが、葛藤し、ボロボロになりながらも勇気を持って少年を守り、迫り来る数々の脅威に立ち向かう姿には、共感し手に汗握る。
脆さとやはり魅せるタフさで、熱演。

もう一つの魅力は、母性。
『マレフィセント』からかアンジーには“母性”という要素が色濃くなった。
自身も母。養子を迎え、様々な慈善活動やチャリティー、基金、難民や孤児たちの支えや力になっている。まるで、現代のオードリー・ヘプバーン!
彼女が母性を魅せる時、真に強く、美しい。その魅力が存分に活かされた。
かつて少年3人を救えなかったハンナ。しかし今度こそは、この少年を守り切る。
彼女に庇護される少年、コナー。
父を失った身。今度は自分が命を狙われる。
父が命を懸けて託した秘密を持ったまま、誰を信じられるか。
「あなたは信じられる…?」
心を開いていく。
お互い誰かを失い、心に傷を。
そんな二人の交流。“相棒”であり、“擬似母子”のよう。
コナー役のフィン・リトルくんも好演。
アンジー版『グロリア』と言ってしまえばそれまでだが、なかなか魅せるドラマになっている。

二人を取り巻く登場人物らのドラマも絶妙スパイス。
追う暗殺者。中年男と若い男。プロの暗殺者としてターゲットを仕留めてきたが、今回思わぬトラブル発生。暗殺者側のドラマもじっくり描く事で、彼ら自身の窮地や忍び寄る脅威、暴挙などもスリリングに。
暗殺者コンビのエイダン・ギレンとニコラス・ホルトが非情さと憎々しさの巧演。
巻き込まれ型の警官夫妻。ハンナらの助力になるイーサンもさることながら、特筆すべきは妻のアリソン。
暗殺者に襲撃されながらも、妊娠の身で反撃。もう一人のアクション・ヒロイン。メディナ・センゴアが熱演。
お互いの身を案じる夫婦愛のドラマもそれとなく。

森林消防隊員と少年、警官夫妻、暗殺者…各々のサスペンス・アクションとしては、さすが緊迫感と見応えあり。
だけどもう一つの要素、山火事のディザスター・パニックがちと緊迫状況をお膳立てる為の添え物に感じてしまった。
ハンナのトラウマであり、もうちょっとこの山火事の危機も交錯するアクションやドラマと巧みに絡めてくれていたら…。
実際に広大な森を造り、迫力ある山火事の画が撮れただけに、惜しい。

これまでのシェリダンよりちと淡白な感じも。
が、見る物を引き込む稀代のストーリーテラーの手腕はやはり上々。アクション×ドラマ×山火事のエンターテイメント。

テイラー・シェリダンはこれからも、社会派テーマを訴えつつ、ドラマチックなアクション・スリラーの旗手として、その座とジャンルを守り抜く!

近大