「こういう人間関係があった時代を知る意味はある」かば バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)
こういう人間関係があった時代を知る意味はある
熱血スーパーティーチャー物語ではありません。中島みゆきをバックに腐ったミカンが運ばれていく話でもありません。本作は教師を含めた地域の大人と子供の「人付き合い」と「学び」のお話ではないでしょうか。
上映後のトークショーにて、パイロット版制作含め7年制作にかかってるそうで、最初の2年半はしっかり取材を重ね脚本を作り、実在の学校で実際にあったエピソードを全て物語に組み込んだそうです。(1つだけ創作有り)さまざまな登場人物にエピソードを散りばめているものの「起きたことは事実」だそうです。嘘だろ?って昭和生まれの僕でもすら驚くことばかりです。事実は小説より奇なりですね。
本作を見ると確かに時代は変わったなぁって思います。スマホもなく、PCだって普及してない。だから直接コミュニケーションしか方法がなかった時代。決して「昔は良かったわ!」、「あの頃に戻ろう」ってことではないと思います。
ですが、すごく大事なことを描いている気がします。「伝える=理解してもらう」ってすごくパワーがかかるし、自分の内面の葛藤があります。自身の意思で何かを乗り越えていかないと実現できなかった時代とも言えると思います。すごく面倒なことではあるけど、やるべきことはとてもシンプルなことだとも思います。
そもそも人間付き合いって面倒なんです。答えがない、さらに相手は感情を持つ考える生物。こちらの動きで何をするかわからない。さらに自分が傷つくこともある。そりゃ、手軽に文章だけで「伝える(言いっぱなし)」で終わらせられれば楽ですよね。だけど、その一方通行が故の悲しいことって、現在は増えてきていませんかね?
時代は移り、価値観も生活も社会も変わっているわけですから、今にFITした様式ややり方ってのはあるのでしょう。だからコミュニケーションの方法をとやかくいうつもりはないです。ですが、パワーがかかるはずのコミュニケーションが手軽に簡便になってきたが故に、人間関係が希薄になっている気もするのです。それはすごく残念なことだと思うのですね。大切だからこそ面倒だと思います。
本作に出てくる大人たちは、とにかく子供を見守ってます。親だろうが教師だろうが地域の者だろうが。もしかしたら、今の大人達が自ら子供との人間関係を希薄にしているのではないだろうか?なんて思っちゃいました。人間社会は問題が毎日起こると思います。ですが、その問題に逃げずに立ち向かう本作の先生達のように生きているだろうか?何かやった風なことをしてお茶を濁していないだろうか?ちゃんと火種に水をかける努力をしているだろうか?その姿を若者や子供達に見せているだろうか?と自らを律したくなりました。
この作品は「あの頃を等身大で」描いたものだと思います。故に観る方々のこれまでの人生経験で伝わるものが変わってくると思います。ですから老若男女で変わるはずです。ですが、僕は「普遍的な大事なもの」が描かれていると思いますからぜひ親子で(前半、やばいエピソードありますが)見て欲しいと思います。
余談ですが取材を綿密にした作品なのに、本作には陰湿なイジメ描写がないのです。なぜでしょうね?あったのかも?ですが大きな問題になる前に鎮火したのではないか?と推測できます。それも身近な大人達の密接な人間関係の賜物だったのではないのでしょうか?
また余談ですが、本作の制作のきっかけはモデルの蒲先生の葬儀の際にとても多くの参列者がいらっしゃったことだそうです。それに興味を持たれて取材が始まったとのこと。
葬儀にその人の人生が現れるって聞いたことがありますけど、本作見て納得です。
おすすめです。