劇場公開日 2021年8月13日

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「いま、観ることに、向き合うことに意味があるドキュメンタリー映画」東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート だい茶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0いま、観ることに、向き合うことに意味があるドキュメンタリー映画

2021年7月25日
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165億円がかけられたのだと言われる開会式の翌日に、先行上映で鑑賞して来ました。

見終わってふと思い出したのは、かつて昭和50年代から平成前半頃のNHK特集(ないしはNHKスペシャル)が描いてきたようなテーマと覚悟のようなものです。骨太で真実を突く力作でした。安定感のある考え抜かれたカメラポジションからの固定画。私の好みでは、多くの人々に届かせるためには、美意識を廃してでももう少し俯瞰情報(文字、映像ともに、或いは冒頭にはナレーション的な言葉が少しあっても、より入り込みやすくなったかもしれません)が有っても良かったかと鑑賞中は感じましたが、監督の狙いと美学なのだとも思います。

目の前で起こる壮絶な現実に、監督は、撮影クルーはどう動いていたのか?どう声をかけたのか(かけなかったのか)?、声をかけたとしたらそこは構成上カットしたのだろうか?と自分がもしその場にいた人間だったならどうするだろうか、と自問しながら鑑賞しました。

長期に渡る制作期間。きっと現場に行かれなかった日々や、惜しくも撮り逃してしまった入れたかった、或いは入っているべきカットやシーンも沢山あった事だろうと邪推します。けれども残されたこの記録映像からは、現代の日本人の、そして社会や政策の、愚かで人の心を大切にしなくなってしまった姿がこれでもかと浮かび上がってきます。

映画のヘソとなる壮絶な引越のシーンが胸を打ちますが、実は監督の狙いはそれらの過激な現状よりも、ところどころ、そして冒頭からも挿入される場当たり的にも見えた各社マスコミの取材姿勢のような気がしました。

マスコミだけを批判しているのではなく、我々ふつうの人々の目を覚まさせようとするかのようでもあり。いずれにしても、これらの問題はこの映画だけでなく、NHKスペシャルや大手新聞のトップ記事として連日のように世に問われるべき問題だったはずです。

復興五輪という名の不幸五輪が始まってしまったタイミングで先行上映に踏み切ったアップリンク吉祥寺の英断にも拍手。終映後に登壇された 青山真也監督は若く見え、喋りは流暢ではなかったけれども静かで熱い思いを少しずつ言葉を選んで語られる人でした。次回作も観に行くと思います。

今、観ることに、向き合うことに意味がある映画だと思いました。劇場のコロナ対策は厳重でした。ソフト化、オンライン視聴可まで待たずに今、見るべきドキュメンタリー映画なのではないかと感じました。

だい茶