「マルチバースの扉を拓いた先には…」ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
マルチバースの扉を拓いた先には…
単体作品としてはこれが2作目。MCUの他の作品にちょくちょく登場してるから、全然そんな感じがしない。
約5年半ぶりの単体作だが、前作の続編ではない。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の続き。
自らの力で“マルチバース”を歪めてしまった魔術師ヒーローの“その後”。
元恋人クリスティーンの結婚式に出席していたドクター・ストレンジ。
その最中、突如現れた謎の怪物、謎の少女。
その少女アメリカは、“別宇宙”からやって来たという。これもマルチバースの影響か…?
マルチバースを自由に行き来出来るというアメリカだが、自分の意思では出来ない。
ストレンジはかつて最強宇宙魔人と共に闘い、強力な超能力を持つスカーレット・ウィッチ/ワンダに協力を求めるが…。
公開まで徹底した秘密のベールに包まれていた本作。
それでも少なからず明かされていた上記のあらすじ。
それと、予告編などでの印象からすると…、
マルチバースから現れた未知なる脅威/新たな敵に、ストレンジとワンダが立ち向かう…と思っていた。
予告編などでマルチバースのストレンジが登場し、“ダークサイド”として己と闘うのでは、と。
実際見てみたら、確かにストレンジvsストレンジのマルチバースならではのイマジネーションを魅せてくれるが、今回立ち塞がる最大の脅威/敵には非ず。あくまで話の流れ上の一つの展開。
今回の脅威/敵は何と! まさかのワンダであった…!
ワンダに何があった…?
それに大きく関わるのが、MCU初の配信ドラマシリーズとして昨年反響を呼んだ『ワンダヴィジョン』。
しかしながら私、『ワンダヴィジョン』を見ておらず…。(昨年、ディズニープラスに登録しようと思ったら、その登録の仕方がややこしくて面倒臭く、結局登録出来ず)
未見だが、それでも知っている『ワンダヴィジョン』の設定と本作から推測するに…
そもそも『ワンダヴィジョン』は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』後、ワンダと死んだ筈のヴィジョンが結婚し、昔のアメリカのホームドラマのように暮らしている…という奇妙な設定。
しかし実はそれは、ワンダが作り上げた“偽の世界”。多くの人を巻き込み、町を支配し…。
そこに、アガサなる魔女や本作でもキーとなる暗黒の書“ダークホールド”が関与。
その“事件”がきっかけとなり、ワンダは“ダークホールド”にも記されている真の魔女“スカーレット・ウィッチ”として覚醒。(…って、事でいいのかな?)
そして本作では、アメリカの力を狙い、マルチバースに居る子供を手に入れようとする…。
ワンダ、暴走!
驚きなのは、こんなに強かったっけ?…と思うくらい、メチャ強ェ…。で、超怖ェ…。
覚醒した邪心と強大な力によるものだろうが、今なら一人でもサノスに勝てんじゃね…?
『ワンダヴィジョン』と本作が直接的に繋がるというのは、何かで聞いていた。
加えて本作は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』からの続き。
MCUは元々“一見さんお断り”ではあったが、今回は一際そうなっている。
映画作品ならまだしも、配信ドラマも見ておかなければついていけない。見たくても見れないのに、そりゃ無いよ~!
…と嘆いてしまうが、そこは現代屈指のエンターテイメント・ワールドを創り拡げたMCU。完全に意地悪ではない。
本作も『ワンダヴィジョン』を見ておかないと分からない部分はありつつも、本作は本作で充分楽しめる仕上がりであった。
まず、続投予定だったスコット・デリクソンが諸事情で降板し、後任としてメガホンを握ったのは、話題のサム・ライミ!
本作、MCU作品でありつつ、サム・ライミ作品でもある。
デリクソンが続投する予定時から、本作はMCU初のホラー色が濃くなると言われていたが(デリクソンも『エミリー・ローズ』『フッテージ』『NY心霊捜査官』などホラー畑)、元ホラーの鬼才、ライミによってそれはより濃厚に。
ゾンビ・ストレンジ、幽霊屋敷…。これまでにないくらい、ホラー演出がたんまり。
でも一番のホラー描写は、目を赤く光らせ、血塗られた顔で襲撃する魔女ワンダのインパクト!
間違いなくライミは、スーパーヒーロー映画ではなく、ホラー映画の気分で撮っただろう。
だけど本作は、れっきとしたスーパーヒーロー映画。
そう、ライミはスーパーヒーロー映画を手掛けている。『ダークマン』!…もだけど、言わずと知れた自身の代表作にもなった『スパイダーマン』3部作。
あの時魅せてくれた、ダイナミックなアクションと抜群のコミック・センスは本作でも遺憾なく。
ホラー風味×スーパーヒーロー。後任とは言え、本作の監督にライミは適任だったと言えよう。
『ドクター・ストレンジ』の醍醐味の一つと言えば、魔術(CG)を駆使した驚異の映像世界。
ここでもマルチバースならではの、幾つものマルチバースを通り抜けていく際の映像表現、異次元感。顔がガラスのように割れ、さらにはペンキにもなっちゃった。
ストレンジvsストレンジ。魔術で、音符が浮き出、クラシック音楽が鳴り響く“音楽アクション”。
CG魔術×ライミのエンタメ手腕×幽霊屋敷で、白眉の一つであった。
マルチバースを取り入れた事により実現した夢のクロスオーバー。
その最高潮が『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』であった訳だが、秘密のベールに包まれていた本作。
どんなクロスオーバー?…と、期待。
やはり、あった!
別宇宙の“アベンジャーズ”のようなスーパーヒーロー集団、“イルミナティ”。
別宇宙のストレンジも属し、かつての同志モルド(無論、別宇宙の)。
“キャプテン・アメリカ”が恋人ペギーになっていたり、“キャプテン・マーベル”が友人マリアになっていたり。
クロスオーバーは、『ファンタスティック・フォー』のリード、そして極め付けの『X-MEN』からエグゼビア教授ことプロフェッサーX! 勿論演じるは、パトリック・スチュワート。
この別宇宙では、アベンジャーズに『ファンタスティック・フォー』と『X-MEN』が加入。
でも、ちょっと扱いが雑だったね…。声が武器の初めましてのヒーローもそうだけど(コアなMCUファンなら知ってるキャラらしい)、皆あっさりワンダに瞬殺。
ディズニーが20世紀フォックスの一部の権利を買収。こちらの宇宙でも、『ファンタスティック・フォー』や『X-MEN』がアベンジャーズに本格参戦するまで期待しよう。
別の自分やクロスオーバー…マルチバースならではの面白味。ワクワクはしたが、でも正直、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ほどの興奮と感動は無かったかな。
これだけディープな要素満載だとドラマ部分がおざなりになりがちだが、きちんとポイントは掴んでいたと思う。
今回のテーマは、“幸せ”。
ワンダの暴走も自分が存在する現宇宙では手に入れる事が出来なかった“幸せ”を盲目なまでに欲しようとするあまりに…。マルチバースの子供たちに「魔女だ!」と怖がられた時のワンダの表情は、哀しい。
欲望の赴くままに、力ずくで己の幸せや望みは手に入れる事は出来ない。
そして、ストレンジも。
世界を救ったヒーローとして、多くの人に尊敬され、愛されている。
魔術も極め、MCUヒーローの中でも特異な位置にいる。…傍目は。
序盤のクリスティーンの結婚式。
本来なら、彼女の隣にいたのは、自分ではなかったのか…?
違う選択、運命、人生、自分もあったのではなかったのか…?
今自分は、幸せなのか…?
複雑な心境。
が、今自分がここにいるのは、自分の選択。それによって切り拓かれた運命、人生。
苦難もあった。
でもその中には、幸せだってきっとあった筈だ。
自分で選んだ幸せに、感謝と誇りを。
いつもながら美味しい所を持っていくウォン。さすが“至高の魔術師”!
マルチバースの扉を開いた事により、さらに深くなっていくMCU。
未だ変わらぬ人気であると同時に、ついていけなくなっていく人たちも現れそう。
と言うか、フェーズ2、フェーズ3の頃からすでにそう言う人も。
何処まで深く、拡がっていくか、MCU。
この世界に足を踏み入れた者としては、途中置いてきぼりを食らっても、最後の最後まで付き合っていきたい。
毎度恒例のEDオマケ映像。
“天○飯”化したストレンジの前に突如現れたはシャーリズ・セロン!…だけど、あなたは誰??(調べたら、原作コミックではクリスティーンの後にストレンジのパートナーとなる“クレア”という女魔術師ヒーロー)
それから、ストレンジの魔術によって自分を延々殴り続ける男の運命は!?…って、これはどうでもいいか。
最後に、年内公開予定のMCU作品へ。
7月の『ソー:ラブ&サンダー』。これは予告編を見る限り、単純に楽しめそう。
年末の『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー』。気掛かりなのは、これ。チャドウィック亡き後、どう展開するの~??
近大さんのレビュー、すごく参考になりました!ワンダヴィジョンのこともなるほど~!そして音符が飛び出す「音楽アクション」は私も大好きなシーンでした!ありがとうございます🎶