「なんだか勿体無い」キャッシュトラック ゾロアットさんの映画レビュー(感想・評価)
なんだか勿体無い
予告編もポスターも目に入れずに観たのでなかなか楽しめたが娯楽寄りにするのかノワール寄りにするのか些か中途半端な作品になってしまった感がある。主人公のキャラクターをどう見せたいのかが曖昧なせいで「警備会社の新入りが実は復讐に燃える裏社会の人間」という作品の根幹の設定があまり機能しているとは言えず仮に主人公が正義の元軍人でも元警官でも何なら元々警備員でもそれほど問題無くストーリーが成り立ってしまうのも気になった。何故なら主人公が裏社会の人間らしいバイオレンスさを発揮するパートは人違いの八つ当たりばかりで無能に見えるだけなのでいっそ要らないからだ。更に主人公が同僚や敵に正体を明かす機会が無いまま敵も味方も裏切り者もどんどん死んでいくので「まさかお前が○○だったなんて…」というシーンがほぼ無いのが潜入ものとしては物足りない。おまけに主人公の怒りと興味の対象がほとんど下手人の三下野郎のみに向いていて事件の首謀者や裏切り者は主人公の預かり知らないところで勝手に退場、主人公のことを碌に知らない三下野郎を簡単に殺して終了というのもカタルシスに欠けるところだろう。三下野郎は確かに主人公からすれば許せない奴だが所詮は任務遂行中の暴発に過ぎないので観客からするとそこまで三下野郎にムカついてはいないからだ。首謀者のマイホームパパぶりをやたらと丁寧に描画していたことやラストの簡素な話の畳み方からすると首謀者とその家族を対象にした、よりバイオレンスなエンディングルートも試写では用意されていたのではないかという気になるが真相は分からない。とにかくこの映画は各キャラの役割を少し入れ替えればもっと面白くなるのではと思わされる惜しい作品だった。特に意地悪で弱虫だった同僚が終盤なかなかの成長ぶりを見せていただけに雑な退場は惜しい。ベタベタだがこういう映画のラストは「事件解決直後、主人公の正体に気付いた同僚が主人公に銃を向けるが主人公に何度も救われた日々を思い出して銃口を下げ、主人公は同僚を一瞥して闇に消える」というような感じが無難なのではと思う。