「自分の中に感じる純朴さに涙した」こちらあみ子 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
自分の中に感じる純朴さに涙した
エンドロールに入った直後に涙があふれてきた。
理解できなかったあみ子の言動は、それを理解しようとしなかった私自身で間違いはない。
あみ子自身が誰にも理解されていないことを14歳くらいになってようやく気付き始めたときに、今までそれを理解しようとしかった自分に出会う。この物語は、私自身の物語かもしれない。
頭の中に流れ続けていた「お化けの歌」 父までもあみ子を放棄したことがあみ子のなかでゆっくりと理解されてゆく。
あみ子にとっての謎 それはその通り謎だが、この作品のテーマの象徴でもあるだろう。
このテーマを言葉でうまく説明できない。それは、あみ子にとっては純粋な興味だが、大人になるにつれその「謎」そのものへの興味が同世代たちと乖離していく。
最後にあみ子は朝方まで一睡もできずに、やがてはだしのままスキップしながら海辺まで行く。
目の前に何艘かののボート ボートをこぐ霊たちの姿 彼らはあみ子に手招きしている。
あみ子はただ手を振り返し続ける。
霊たちはやがて、再びボートを漕ぎ始めて去ってゆく。
誰かが道端から声を掛けた。
「おーい、まだ冷たいじゃろ?」
あみ子はその声に振り返りながら大きな声で返事をする。
「大丈夫じゃ!」
そう、あみ子は大丈夫なのだ。もう、何があっても大丈夫なのだ。
あみ子はあみ子のまま生きることをこの世界に向かって宣言したのだろう。
この瞬間、彼女の純朴な精神に打たれてしまった。
この作品は2000年ごろの広島を描いたのだろうか?
「はだしのゲン」という言葉と戦争当時や昭和40年代くらいまでいた元気な男の子の女の子バージョンがあみ子だろうか?
2000年以前まではあまり言われなかった発達障害。
今では何でもすぐに病名を付けられてしまう時代。
あみ子の義母は、最初はあみ子に対して温厚だったものの、死産したことと「弟の墓」なんてものを作ったことで完全にあみ子をシャットアウトしてしまう。
いまでいうネグレクトだろう。食事も作らず、家事もしない。
さて、
兄のコウタはなぜ不良グループの仲間になったのだろう?
コウタは義母がまだ臨月の時すでに10円玉ハゲを作っていた。彼は何らかのストレスを抱えていたと思われる。
その時コウタは「あまり母さんのほくろばかり見るな」という。母に人一倍気を使っているのが伺える。そのストレスがコウタのハゲだったのだろう。
「弟の墓」
これがすべての元凶だったのだろうか? 俯瞰している視聴者からは、あみ子がした行為はそこまで咎めることはできないように思うが、義母が泣き喚いたことでそれが「元凶」とされたのだろうか?
コウタもこれがきっかけであみ子に辛く当たるようになった。
コウタはなぜそこまで変化してしまったのだろう?
あみ子が作る墓には母の墓はないことから、離婚したと考える。
その原因を作ったのは、少なくともコウタの認識ではあみ子だったのかもしれない。
父は最後まであみ子の世話をしていたことから、最初にあみ子から手を引いたのが母だったのだろう。
母を初めて紹介されたときコウタは、「俺のハゲを見ろ。オレはハゲか兄か? お父ちゃんは眼鏡かお父ちゃんか? あの人は母かほくろか?」と尋ねる。
一般の人から見れば奇異に見えてしまうあみ子の言動を何とか修正しようと頑張っていたが、墓の件でコウタの心が折れてしまったのだろう。
あみ子は発達障害なのかもしれない。勝手気ままに学校に来たり来なかったり 勉強もしないし字も書けない。今この瞬間に興味惹かれることだけがあみ子を動かしている。
そして人々はすべてあみ子をおかしな子としてレッテルを貼っている。
兄が暴走族でなかったなら、いじめの対象だった。しかしこの作品のテーマはいじめではない。兄の変化はそのための伏線だったのだろう。
この作品の基本的な視点は「あみ子」 彼女そのものだ。元気で活発で、他人を傷つけたりはしない。
ただ人と同じことができないだけだ。枠に縛られていることができないだけだ。
また、この作品は教育システムや社会システムに問題を投げかけているのでもない。
母がいなくなり、また新しい母がやってきて、弟が生まれる期待。それが妹だったとずっと知らないままでいたのは、「みんな秘密にする いつも 毎日」
そうして、みんなから相手にされなくなってゆく。
「私、気持ち悪かったの? どこが? 教えて、全部」
みんなからそう思われていたことを男子から聞かされたとき、ほんの少しだけ周囲との齟齬があったことを感じ取る。
その男子が「それはワシだけの秘密じゃ」と言ったのは、それを口に出すことが自分自身に返って来ることを悟ったからだろうか。心の底では、誰もあみ子を裁くことなどできないことを知っていたのかもしれない。
男子から教えられた「鷲尾佳典」という漢字 ノリ君の本当の名前 それを忘れまいと心に刻むあみ子。
大切なものがひとつひとつ消えていくのを実感として心に降りてくる。
彼女の心にほんの一瞬触れた男子は、彼女を傷つけるような言葉は間違っても言えなくなってしまったのだろう。
引っ越し 転校 おばあちゃん宅 大きなカエルに大きな蛇 でも、同じ年頃の子供たちは誰もいない。
夜中にしたトランプゲーム やがて父から聞かされる「本当のこと」
あみ子には彼女なりに考えることがあったのだろう。
あの時、
引っ越し直前に兄がやってきて、突然「謎」だった霊の音の正体を暴いて見せた。
「ウォ~リャ~」
鳩の巣と1個の卵を外に放り投げた。
生まれなかった命 その卵はきっと「妹」だったのだ。
木に引っ掛かった卵にはどんな意味があるのだろう?
何かの可能性を示しているのだろうか?
明け方の浜辺で見えたボート
あみ子には霊になるという選択もあった。
でもあみ子は端からそんな選択肢は持たない。
その霊たちを見送るだけ。あみ子の些細な「謎」の根源がゆっくりと昇華されていった。
中学時代までの想い出たち
すべてに別れを告げて彼女は大きな声で言った。
「大丈夫じゃ!」
この訳の分からない作品に心打たれる自分がわからない。
言葉にならない「赦し」のようなものを感じるだけだ。
R 41さんは、あみ子の側(うち)からの
レビューですね。
優しいから泣けるのだと思います。
あみ子は「大丈夫」
きっと理解してくれる人も出来ます、仲間も。
私は常に外(そと)でした。
原作者の描く「あみ子」
無意識に周囲の人間に変化をもたらしてしまう。
こういう視点から発達障害のある子供。
その家族の葛藤や「あみ子」の影響・・・
を描いた小説や映画を知りません。
たしかに家族は無傷ではいられない現実がありますね。
作者もかなり「あみ子」に近い部分のある人で、それを抽象化して、
小説にまとめる力量は凄いですね。