「若手監督による殺し屋女性2人の日常。しかし…」ベイビーわるきゅーれ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
若手監督による殺し屋女性2人の日常。しかし…
高校卒業を機に、女子高生の殺し屋“まひろ”と“ちさと”は、共同生活を始めることに。これまで殺しという「特殊な生活」ばかりを行ってきた影響か2人の生活能力は低く、本業である殺し屋の傍らで、バイトや家事といった不慣れな「一般的な生活」に右往左往していく。しかし、残酷なやくざの世界は、そんな2人の日常生活にすら侵食してくる。
まず第一に、監督がまだ20代の若手(撮影当時24〜25歳)という事にビックリ。しかし同時に、若さ故の未熟な面もチラホラ。正直な話、個人的には本作、あまり乗れる作品ではなかった。
ハリウッドでは『ジョン・ウィック』や『イコライザー』といった、普通の日常と殺人マシーンへの切り替えのメリハリ、それらをスタイリッシュかつスピーディに描く時代だからこそ、そことの差別化を図っての緩いコメディチックな日常を描いたのだろう。
しかし、どうにもこの日常生活描写が「ネットにばかり触れてきた男性目線のソレ」に終始していたのが頂けなかった。自らに特別感を抱くが故に一般を見下すまひろへのちさとの説教の語り口を始め、日常生活描写に挟まれる細かい部分まで「男が書いた」という印象が強いものばかりなのだ。バイト先の先輩に対するグチの元が『ジョジョ』ネタに対する不満だったりと、まるで監督の実生活での経験をキャラクターを通してそのまま喋らせているかのよう。
というのも、本作の主人公2人は高校出たての新社会人で、しかも女性。殺し屋として裏仕事ばかりをこなしてきたと言っても、表向きは普通の高校生活を過ごしてきたはずだ。ならば当然、まひろもちさともメイクやファッション、今時の流行にだって少なからず興味を持っても良さそう(少なくとも、フレンドリーなちさとは)なものだが、なんだか2人とも日常生活に不慣れというより、「社会人3年目くらいのくたびれ始めたサラリーマン感」が常に漂っているのだ。
例えば、ちさとだけは「一般的な生活」という新しい環境に乗り気であり、新作のコスメやファッション、美容にもアンテナを張った今風女子として描いた方が、コミュ障で日常生活に馴染めないまひろとの対比がより際立ったと思う。
台詞一つ取っても
ち「バイトもしないんだったら、〇〇の新作コスメ代わりに買いに行ってよ。朝イチで並ばないと買えないんだから」
ま「何で私がそんな事しなきゃならないの?てか、メイクだファッションだって意味ある?ウチら殺しがメインでしょ?」
といった互いの価値観の相違なんかも無理なく描けたはずだし、価値観が違う2人が共同生活を送るからこそ、中盤での対立や仲直りにも意味が出てくると思うのだが。
また、共同生活による日常描写に多くの尺を割いているからこそ、クライマックスでのアクションシーンは、連帯感を強めた2人の連携プレーといった“バディ感”のあるアクションも欲しかったところ。
そんな不満もありつつ、クライマックスのアクションシーンは、本作一の見せ場。「邦画実写」という括りを抜きにしても、まひろと渡部の一騎打ちの格闘戦は迫力がある。「落ちている銃を拾う」という王道の展開も、「拾うと見せかけて直前で頭突きを喰らわせ、ダメージを与えてからトドメを刺す」という工夫がフレッシュで良かった。
話を日常生活に戻すが、日常生活の舞台としてちさとがバイト先としてチョイスするのがメイド喫茶というのも、正直違和感があった。「萌え」や「可愛い」に満たされたメイド喫茶という空間の非日常感は、一般的な日常生活と重ねて見るのは難しいし、せめて居酒屋くらいにしてくれたら話も違ったのだが。というか、居酒屋なら店長が作中にあった「お釣り200万円ね!」ネタも無理なく入れられたはずだし、その冗談が通じず激昂する一平をちさとが射殺するという展開でも良かったと思うのだ。
というか、正直メイド喫茶の件は痛々しくて見ていられなかった(笑)生活費のやりくりで頭使っている関西弁の先輩従業員と、殺し屋生活で特にお金には困っていないちさととの価値観の違いが出る一瞬のピリつきは面白かったが。
敵役である浜岡一家も典型的な異常者、漫画的なキャラ付けや台詞ばかりを発するので、敵役としての恐ろしさが感じられず。また、悪い意味で現実感に乏しく、それは本作で扱う非日常感とはイコールにはならないだろと思うのだが。
主演の2人、ちさと役の髙石あかりとまひろ役の伊澤彩織の演技、特にスタントパフォーマーである伊澤さんのアクションは非常に素晴らしかった。
また、ラバーガールのお二人も演技が上手く、俳優として違和感のない仕事ぶりだった。普段のコントの雰囲気から考えると、こういった役には適性が高かったのかもしれないが。
キャラクター設定や描写に違和感やツッコミ所は多々あれど、「邦画もまだまだやれる!」と言わんばかりのアクションシーンは見応えはあり、本作のアクションの評判が高いのも頷ける。