「迫力ある演奏に圧倒されつつも、未公開だった理由をぜひ教えて欲しい一作。」サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時) yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5迫力ある演奏に圧倒されつつも、未公開だった理由をぜひ教えて欲しい一作。

2021年10月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

若きスティービー・ワンダーの演奏が、観客を一気に1969年に引き戻し、ニーナ・シモンのメッセージが時を超えて観客に訴えかける、そんな魂と迫力のこもった一作です。ブルースもソウルもほとんど知らなかったけど、そんな素人でも一聴して分かる、ミュージシャン達のまさに魂を削って紡がれる演奏。その迫力もさることながら、数週間にわたって行われたこの、ハーレム・カルチュラル・フェスティバルを記録した映像も膨大なものだったようで、観客席、ステージ脇、そしてステージ袖から、など、あらゆるアングルで撮影された映像をつなぎ合わせて、みごとに一つの舞台を映像上に構築しています。

ところがこの映像は、約50年にもわたってお蔵入りしていたとのこと。アレサ・フランクリンのライブを記録した『アメイジング・グレイス』も同じような経緯だったけど、後者は主に技術的な問題で公開ができなかったという説明がなされている一方、本作が未公開だった理由はあまりはっきり示されません。フェスティバル全体の運営はもちろんのこと、記録映像の撮影という部分を抜き出しただけでも、膨大な人員と機材、資金が投じられていることが明白であるにもかかわらず、です。恐らく収益予想などの興行的な問題が絡んでいるんだろうけど、同年に、しかもそれほど離れていない場所で開催された「ウッドストック」と
は余りにも対照的な経過を辿っています(黒人中心のフェスティバルだったから、という背景も示唆されています)。

しかし、だからこそ、時を超えて蘇ったミュージシャン達の姿は鮮烈で、心を揺さぶるものを宿しています。映像を観て、当時を回想している参加ミュージシャンや、観客の表情もまた忘れられないような印象を残します。作中の、「月面着陸よりもこっちのフェスティバルの方が重要だぜ!」という台詞は、当時の時代背景と彼らの熱意が伝わってくる、なかなか上手い言い回しですね。

yui