「切ない」SEOBOK ソボク リボンさんの映画レビュー(感想・評価)
切ない
クローン技術による受精卵に自己細胞複製能力を人工的に加えられて「作られた人間」のお話でした。
最近多い、晩年の生き方(ノマドランド)、高齢者の認知症(ファーザー)、亡くなった体の綺麗な保存&そもそも不老不死にして死ななくする(アーク)。。など、生き方死に方、何故生きるかというテーマを人工人間という側面から扱った映画でした。
息子と夫を事故で失った悲しみからまた息子を生み出した、という心情そのものは理解出来ますが、自己複製能力のおかげで病気関連は自ら治癒できる為死なない体にした、というのも親心からでしょうが、そのおかげでその優秀な細胞、骨髄などを研究者がこぞって欲しがり、
研究所で自らの細胞を搾取されるだけの存在になってしまい、生きる価値も生きる楽しみも喜びも、どんな職業になりたいとか、そんな根本的な生き方を何も選択出来ないままただ研究所で生かされ続けただけの主人公が切なすぎました。
副作用なのか、細胞分裂のスピードが異常に早く、また脳波も異常に強いため、脳波から周りの物体に圧力をかけることが出来て、結果、念動力を使うことが出来ます。
初めは足元の砂や小石、葉っぱなど小さなものを少し動かせる程度だったのが、
輸送途中に追手から逃れる為、細胞分裂抑制剤を2日ほど投与出来なかったため、脳波増幅状態が止まらず、どんどん念動力のパワーは強くなり、やがて追手が差し向ける銃の弾丸の軌道すら一瞬で変更させられるほどの高速&強力な念動力を体得します。
ほとんどジョジョの奇妙な冒険に出てくるスタンド「スタープラチナ」です!自らの意思で、迫ってくる弾丸を高速で移動させ、自分を殴ろうとした人を意思だけでその場にねじ伏せることが出来ます。
この力を人工的に得た状態で生まれていますが、でもただ研究所で育ってきたからこの力を使ってどう生きたらいいか分からない。今はとにかく自分を利用したくて拘束しようとする連中への武器としてしか使い道が無い悲しみ。唯一、行動を共にしたコン・ユ演じる元工作員を助けるため、頭痛の痛みを和らげて眠らせて休ませてあげた、くらいがプラスの使い方だったでしょうか。。
最後は、軍隊まで出動させて自分を拘束しようとしてきた連中に対し、脳波の力をとことん使って念動力を駆使しますが、もう体細胞自体は悲鳴をあげはじめ、
少なくとも病気では死なないはずなのに、自分の細胞分裂の早さと脳波の増幅に自ら細胞が耐えられなくなってゆく。。
研究所の食事というか栄養食のようなものを「食べる」のではなく「摂取」するしかさせてもらえなかった彼は、箸の使い方も知らず、検査着しか着せてもらえてなかったから普通のパーカーのような服さえ知らなかった。着たことがなかった。
だからほんのわずかな間、街に出た時の
普通のパーカーを着て
箸を使ってカップ麺を食べる
というだけのとんでもなく平凡な日常が、こんなに幸せなことだったんだと改めて気付かされました。
映画の中の存在ですが、彼にはいつか生まれ変われるなら、次は研究所以外の普通の街で、普通に平凡な人生を生きてほしいと願いました。