「シンプルに音楽が作りたい!!」ショック・ドゥ・フューチャー バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
シンプルに音楽が作りたい!!
今作の冒頭で使用されている楽曲はセローンの「Supernature」だが、この曲は最近だとギャスパー・ノエの『CLIMAX クライマックス』でも長回しダンスシーンに印象的に使用されていた。
この「Supernature」という曲は、1976年に「Love in C Minor」でデビューするや否や、フランスのシンセ界、ディスコ界において衝撃をもたらした音楽プロデューサー、セローンが1997年に発表したサードアルバムの収録曲であり、世界中でミリオンセラーを叩き出した最強の1曲。
新時代の到来を感じさせる「Supernature」を冒頭で使用することで、主人公のアナは、新しいものを作りたいという意識が強いことを表しているのだ。
もともとSYSTEM-700という、1976年に登場して割と新型のシンセを使って、音楽制作をしているアナだが、自分の音楽には「何か」が足らないと日々、試行錯誤していた。
「何かが違う」「もう少し何かが欲しい」だけど…その「何か」がわからない。
そんな中、機材が故障したことで偶然に出会ってしまった、世界初のマイクロ・プロセッサーを使用したリズムマシン、Roland CR-78!!
アナの探求していた「何か」が正にそのリズムマシンであり、思わず笑みがこぼれるアナの表情は、音楽だけに限らずクリエイターにおける「これだっ!」という表情が100点満点!
アナを演じるアルマ・ホドロフスキー自身がフレンチ・ポップ・バンド「Burning Peacocks」のリードヴォーカルであり、この「Burning Peacocks」の楽曲自体がシンセを巧みに使用しているバンドという点も、完璧な表情を作り出した要因である。
音を楽しむと書いて「音楽」と言うが、正にアナが自分の「音楽」を感じた瞬間を見事に表現しているのだ。
湧き上がるインスピレーションによって、いてもたってもいられない、とにかく曲を作りたい!!という、クリエイター脳を常に刺激され続けるアナの姿にはリアリティを感じてしまうほどだ。
しかし同時に、時代の先駆け、新しいものであるが故に、万人受けしないという危険性も秘めている。それでも自分が信じたものを突き進むという意志とは裏腹に経済的な余裕がない不安感などの現実が押し寄せてくる。
パーティーで曲を流したときの反応はどうかという緊張感までもが映像を通して伝わってくる。
あえて恋愛要素のような、劇映画としての肉付けをしないで、「音楽制作の衝動」を物語の中心核として描いたことで、映画としては、シンプルではあるが、その意志というものは抜群に伝わってくるのだ。
これは今作が監督デビュー作となり、同時に脚本・音楽・製作を務めたマーク・コリンも音楽ユニット「ヌーヴェル・ヴァーグ」のプロデューサーであることが大きく機能していて、映画界よりも音楽界にいたからこそできる表現と構成だったようにも感じられる。
その一方で、音楽映画とは別に、ビジュアル的に魅力のあふれる作品にも仕上がっていて、アナのファッションや部屋の小道具が、いちいちオシャレでデザイン的にも色彩的にも目を惹く。
『バッファロー ’66』や『トレイン・スポッティング』のように、アイコン的オシャレ映画として、長く残り続ける風格が漂っているし、私自身、オンライン試写で3回観て、スクリーンで音を体感すべく、リアル試写にも行って、現時点で計4回観ている。それほど中毒性のある作品であると言っても過言ではない!!