「これは平和のための最後の戦争だ(真田広之)」MINAMATA ミナマタ きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
これは平和のための最後の戦争だ(真田広之)
シャッターを カ シャ ・・
ファインダーの向こうに立つ被写体に食らい付くとき、カメラマンも、自ら命を磨り減らしてシャッターを押していたのだなぁ。
てか、「撮影の代価」として、カメラマンはこちらの命を、撮させてもらう相手に代価として譲渡しているのかも知れない。
結果、早死をしたユージーン・スミスと、モデルになった住民たちのドキュメントドラマ。
【アキコと母親の入浴の一枚】
やはりあれは空前絶後の一枚だと思う。
動画ではないのに、なぜだろう、親子の鼓動と 静かな湯もみ唄と、カメラを構えるユージーンの詰めた息と、そしてユージーンが洩らす声が、印画紙のあちらから、そして手前側からも確かに聞こえてくる。
(写真機のこちらにいる人間まで写し取ってしまうのが、ユージーンの説いた報道写真なのかも知れない)。
映画の頂点は矢張りあそこだった。
入浴の再現ドラマのシーン。
ズームがだんだんと寄って、カメラがゆっくりと右手にパンして、あのモノクロの写真に次第に重なって同化してゆく見事なアングルに、僕はどうしようもなく涙が滴って仕方なかった。
このドキュメント映画に出演しようと決意した一流の俳優たちも、凄まじく彼ら自身も寿命を削って、渾身の演技で応えている。無論音楽も。
⇒水俣の民と、そこに3年住んでカメラひとつで戦ったひとりの外国人をリスペクトして、皆で作り上げた傑作だ。
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僕と水俣の関わりは、
ほとんどないけれど、苦界浄土に触発されて一人芝居「天の魚」で全国行脚していた砂田明さんの舞台を、ほんの少し黒子としてお手伝いをしたことはありました。
丸木位里さん丸木俊さんは、水俣の連作も描いておられるけれど、
原爆の図・丸木美術館のスタッフの方が我が家にお見えになったときには、うちの母が言った ―
「紅茶はお飲みになりますか」
「ええ、いただきます」
「レモンはお使いになる?」
「あ、いえ、けっこうです」
「乙女塚農園のレモンがあるのよ?」
「え“ーっ!? あ,はい!頂きますっ!」
必ずこのセリフ運びになるとわかっていて、お茶目なカマをかけていた母とスタッフ女史のやり取りを
僕もテーブルのこちら側でニコニコと見やっていたものだ。
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大企業や発電所は雇用と税収を持ってきてくれる。
地方の町ではそれは喉から手が出るほど欲しいもの。
後代にまで輝いて語り継がれるほどの真摯さと企業倫理が、求められる。
Mさん
お知らせありがとうございました。
第一の文章・・
アイリーンの「母子像を、公開をとめる件」についてを、鳥肌を立てながら読みました。
4人で作ったあの写真が一体何であったのか。そしてその写真をどのように扱うべきか、生死を超えてもう一度語りかけてくれるこのHONESTYに震えています。
僕があの写真から受けた思いは正しかったのだ、と思いました。
今から気持ちを整えて
アイリーンの第2の文章を読みたいと思います。
この映画がきっかけで上村智子さんの写真が、ユージン・スミスさんの写真集に復活しました。
掲載しなくなった経緯が「アイリーン・アーカイブ」に載っていますので、よければぜひ読んでみてください。
Mさん、
コメントありがとうございました。
おっしゃる“地元水俣での上映の難しさ” ―ですね。
外国映画としてこの作品が部外者から持ち込まれて、外から日本に入ってきてくれた事は、日本の映画会社にはまだ水俣のテーマが身近過ぎて、配慮と忖度が重た過ぎて、着手が出来なかったところへの“救い”―だったかもしれません。
今回の機会を捕らえた日本側の役者たちのあの真剣さ、一途さは、そこから湧き出したものだったかもしれません。
チッソの元社長後藤舜吉さんが亡くなっていたそうですね。まだ、水俣病は続いています。
この「ミナマタ」。水俣で先行上映しようとした時にもいろいろな反応があったと聞きました。
コメントありがとうございます。
きりんさんの叔父様は、写真館を経営されてたんですね。
プロの仕事を見られていたとは、うらやましいです。
大手家電販売店のネット通販サイトで注文すれば、暗室用品は入手できるようですが、もう店頭にはあまり置いてないでしょうねぇ。
さみしいものです。
グレシャムさん
〉“人としての成熟”という意味はなくて、忖度とか妥協を意味することが多い
なるほどそうですね。
経営のために、お金のために「公告写真だらけになってしまった・・」と自らを蔑んだLIFE誌編集長が、ユージンの写真を見て、廃刊直前の一大特集を組んだ、あの意気は見ものでした。
日本ではいまだに『オトナになれよ』という大人が多いですが、この場合のオトナには〝人としての成熟〟という意味はなくて、忖度とか妥協を意味することが多い。オトナっぽく無い異質な意見(得てして倫理的にはこちらのほうが正しい)は控えなければならない。それでも、覚悟を決めて意見表明すると下手をすれば思想的に面倒くさい奴と疎まれることすらある。成熟した大人が政界や企業の中間リーダー層に少ないのが、今の日本の最大の問題点なのだと思います。