「些細な事か、否か」リトル・シングス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
些細な事か、否か
実にオールド・タイプのクライム・サスペンス。
それもその筈。Wikipediaによると、ジョン・リー・ハンコックが脚本を書いたのは1993年。舞台設定も1990年。
当初はスピルバーグが監督候補に挙がっていたらしいが、「話がダーク過ぎる」と離脱。その後名だたるビッグネームが挙がるも、実現せず。
28年後、自らの手で。まるで劇中の刑事さながらの執念!
3大オスカー俳優豪華共演ながら、日本劇場未公開。アメリカでは今年1月コロナ禍の公開故大ヒットには至らず、批評も鈍く。幾つかの映画賞にノミネートされたレトは超サプライズなんて言われたり…。
かと言って、凡作ではない。じっくりタイプのサスペンス。
こういう作風が好きな方、自分もじっくり系サスペンスは好きなので、傑作ではないにせよ、そうつまらなくはなかった。
カリフォルニア州カーン郡の保安官代理ディーコンは、事件の証拠集めの為LAへ。そこで連続殺人事件に遭遇、その手口が5年前に担当していた事件に酷似していた。ディーコンは指揮を執る巡査部長バクスターに協力を求められ、捜査に参加。やがて、一人の男スパーマに目を付ける…。
改めて言うが、じっくり系サスペンス。別の言い方をすれば、静かで地味。
ドンパチ派手なアクション・シーンや心臓バクバクの緊迫スリルもない。今風のグロやバイオレンスも。
ディーコンはキレッキレのアクションも見せないし、バクスターはロックを歌わないし、スパーマはハイテンション怪人でもない。
その分ストーリーで魅せる…かと思いきや、結構穴や粗がある。管轄外の保安官の意見が通ったり、張り込み中の刑事が容疑者らしき人物の車に同乗したり。
徐々に明らかになるディーコンの暗い過去は分からなかったが、バクスターの顛末は何となく予想出来た。
もし本作、ダーク・サスペンスならお手の物!…の韓国だったら、KO級になっていたかもしれない。
しかしながら、デンゼル・ワシントン、ラミ・マレック、ジャレット・レトの3大オスカー俳優の演技対決は、確かに見応えあり!
保安官、ワシントン。渋さと苦味の、いつもながらの安定の名演。
刑事、マレック。エリートで嫌味、熱い面もあり、若さ故の脆い面も兼ね備えた複雑な役所。
容疑者、レト。黒か白か、怪しさ満点。捜査側や見てるこちらも苛々させる。
かつては優秀だったディーコン。
が、捜査に没頭する余り、“些細な事”を犯す。
地方に飛ばされ、仕事への情熱も失う。
そんな時、この事件に遭遇。再び仕事へ情熱を燃やし、のめり込んでいく。
ディーコンを最初は見下していたバクスター。
彼も今回の捜査にのめり込んでいく。
バディを組み、スパーマに目星を付け、決定的な証拠を掴もうとしていた時…、バクスターが“些細な事”を犯す。
それは、かつてのディーコンと同じ。
ディーコンの“些細な事”=暗い過去とは実は…。
エリートでまだ若く、血気盛んだったばかりに、バクスターの精神面のダメージは激しい。
その為に取ったディーコンの行動は人として、いち法の番人として、許されるものではない。
果たして、スパーマは本当に犯人だったのか…?
何とも曖昧。もやもや感が残る。
スピルバーグが難色を示したのも分かる気がする。
ラスト、ディーコンがバクスターに送った“ある物”。
俺のようになるな、些細な事だ。
しかし、本当は些細な事では片付けられない。
後味悪い結末。
もし本作が、28年前の1993年に作られていたら、衝撃のダーク・サスペンスになっていたかもしれない。
映画の世界ではよくある。“些細な事”だ。