東京自転車節 : 特集
緊急事態宣言下の東京、監督自らがウーバー配達員で出稼ぎしたリアルなドキュメント
話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日12月17日から、2020年の緊急事態宣言下の東京で、青柳拓監督が自らウーバーイーツ(Uber Eats)の自転車配達員としての活動を記録したドキュメント「東京自転車節」の先行独占配信がスタートしました。
スマートフォンとGo Proで自身の活動を記録し、SNS動画の感覚でまとめあげた日常を記録した映像を通し、コロナ禍の東京と社会、自転車配達員の仕事をリアルに映し出した作品です。このほど、映画.com編集部が見どころを語り合いました。
東京自転車節(青柳拓監督/2021年/93分/日本)
<あらすじ>新型コロナウイルスの感染拡大防止のため緊急事態宣言が発出された2020年の東京。自転車配達員として働くことになった青柳監督自らが自転車配達員として駆け巡った街、出会った人たち。働くという事、新しい日常を生きること、自転車配達員のリアルな体験と視点から届ける。
座談会参加メンバー
駒井尚文編集長、和田隆、荒木理絵、松村果奈
■自転車配達員の実態と青柳監督の人間的魅力が見どころ
和田 自転車配達員の実態がよくわかるとともに、窮地に追い込まれた青柳監督の人間的魅力が楽しめる作品でした。皆さんはいかがでしたか?
駒井編集長 これは、コロナ案件ですよね。すごく早く公開されましたよね。
和田 今年の7月10日からポレポレ東中野ほかで公開されました。
荒木 「潜入取材してみよう」じゃなくて、本当にコロナで仕事がなくなって、困窮してウーバー配達員してますよね。こんなリアルなドキュメンタリーなかなかありませんね。
駒井編集長 オープニングがけっこうユルかったので、油断してたんですが、どんどん面白くなる。
松村 あの頃の社会の空気感や人間関係をリアルに切り取っていましたね。
荒木 コロナ騒動初期の、大混乱の時期ですよね。10万円の給付金どうする?って話も出てきてました。
■超軽装備の低予算映画、しかし撮影がすごい駒井編集長 当時27歳で、本業は映画監督。で、コロナ禍で出稼ぎしながら、長編を1本仕上げるって実は相当な偉業。撮影が何気にすごい。アングルもバリエーション豊富。1人で行動しているから、カメラを色んなところに置いて撮ったんだなと思いますね。マンションの扉越しに配達する画とか、お店で弁当受け取る画とか。カメラの位置を意識しながら見るとメッチャ楽しめる。
松村 主にスマホとGo proで撮影だそうですね。
駒井 ものすごい軽装備ですよね。製作費はほどんどかかってないんじゃないかな。
和田 撮影費も監督がウーバーで稼いだお金だけで凌いでいたのではないかと思ってしまいます。
荒木 山梨から小さい車輪の自転車とサンダルで出発して、東京まで走って行ってましたしね。すごすぎ……。折々に出る所持金の金額もすごいリアルです。あんなに苦労してそれだけ!?と驚きました。
■ウーバー配達員の労働実態が丸わかり駒井編集長 確かに、去年はウーバーイーツを山のように見かけましたけど、その労働実態が丸わかりで相当面白かった。「ハンバーガー1個運んでいます」「タピオカ1杯を運んでいます」って爆笑しかない。
松村 やはりタワマン在住者など、お金に余裕がある方が頻繁に利用されているようでしたね。でも監督が運んでいたのが、高級なレストランや個人経営店のこだわりメニューというよりも、安価なチェーン店のメニューだったり、ハンバーガーやタピオカをひとつ、とかだったのが興味深かったです。
駒井編集長 あと、ウーバーの人たちが何で電動のシェアバイクを使っていたのかも、この映画で分かりましたよね。たくさん注文こなすには、速く走れる乗物が必要なんだって。
荒木 ウーバーの先輩に「いい場所」教えてもらったりしてましたね。
松村 これは監督インタビューで伺ったのですが、やはり汗かく姿を撮りたかったので、電動自転車ではなくロードバイクを選ばれたと仰ってました。
駒井編集長 そのロードバイクがね、パンクしちゃってね……。修理代で1日分の稼ぎが飛んじゃうという罰ゲームみたいな仕打ち(笑)
和田 主題歌「東京自転車節」もクセになる曲で、頭の中でループしてました。他の登場人物たちも個性が強かったですね。
■監督の人柄やいろんな人の生き方が垣間見える駒井編集長 1人で自転車漕いでる映像だけだとさすがに飽きるので、ちゃんと友人や知人との出会いや再会も織り込んであって、しっかり構成がしてある。
荒木 地元の友達、ひいくんがいい味だしてましたね。いろんな人の生き方がちょっと垣間見れる。あんなに苦労してるのに、監督は基本人に優しく、つながりが大事だって言いながら配達員頑張るんですよね。
松村 監督の人柄の良さがにじみ出ていますよね。たまにはきれいなホテルでサボっちゃうところや、誕生日にデリバリー風俗頼んだりするところなども見せて、ストイックな清貧の青年像にしないのが好感が持てました。
荒木 デリバリー風俗のくだりはせつなくて、見ながらあぁ~ってため息でちゃいますよ。
松村 女の子と一緒に食べようと、ケーキふたつ買ってたところが良かったですね……
荒木 普通だったら暴れますよ、あんなことになったら……寒空の下野宿してまで頑張ってるのに。救いは! 救いはないのか!?と思っちゃいました。
和田 普通は逆ギレすると思うけど、監督の人の良さが沁みました。
松村 野宿途中に現れた、日給5000円のエキストラをやり続ける俳優志望の男性の存在にもぐっときました。
和田 あの登場は急に異質でありながら、あの男性の人生を感じさせましたね。
■海外でも高く評価されそうな良作駒井編集長 監督は、いまどうしてるんですか?
松村 インタビューで聞きましたが、この映画がきっかけで今は東京在住で、映像の仕事にシフトしていくそうです。
駒井編集長 ああ、そうなんだ。この映画、海外の映画祭にも出品できますよね。
松村 時代に合ったアイディアとスピードで作られ、コロナ禍の東京をリアルに映した良作ですから、海外でも評価されると思います。
駒井 ですよね。海外の映画祭で見たかったヤツです。ウディネ映画祭とかでやらないかな。ティーチイン、絶対盛り上がりますよ。
松村 こんな素晴らしい作品を作ったので、奨学金返済免除してあげてほしいですね。
和田 奨学金の返済は気になりますね。上手く海外映画祭につないでくれる人が現れるといいですね。
駒井編集長 英語字幕作らないとですよね。製作費はクラウドファンディングで簡単に集まるような気がします。
和田 この作品は、青柳監督に加え、撮影・編集の辻井潔さん、プロデューサー・構成の大澤一生さんの貢献も大きいように思います。
松村 大澤さんがプロデュースした、「タゴール・ソングス」もよかったです。
駒井編集長 見ました。日本人の女性監督がインドで撮ったヤツですよね。
松村 「東京自転車節」も青柳監督にウーバー配達員を提案したのは大澤さんだったそうです。青柳監督の次作も楽しみですね。
駒井編集長 すごい企画力ですね。恐れ入ります。