「イマイチ…」シン・仮面ライダー きなこもちさんの映画レビュー(感想・評価)
イマイチ…
シンゴジラのような大衆向け作品を期待して足を運ぶと、ガッカリして帰る羽目になる。
特に私のように初代仮面ライダー未見勢は注意されたし。
私は開始数分後から早くも頭を抱える羽目になり、エンドロールが流れるその時を奥歯を噛み締め待ち続けた。
クレジットが流れ始めた時点で席を立ち上がり、逃げるような勢いで映画館から立ち去った。
あんな思いをするのは二度とゴメンである。
当然好ましい点と好ましくない点があるのだが、先に好ましいと感じた点を書いた後、好ましくない点を書き連ねる事にする。
シン仮面ライダー肯定派は、好ましくない点については読まない事を勧める。
好ましい点
・冒頭で繰り広げられる雑魚ショッカー構成員との戦闘シーン
視点をブラしてアクションの情報量を減らし、流血を際立たせる画面作りは、リアル寄りの仮面ライダーを演出する上で非常に効果が高いと感じた。
私もこのシーンを観て映画への期待値はかなり高まったし、多分仮面ライダーをご存知の方も唸らされる画作りだったと思う。
あのシーンは本当に素晴らしかった。
・ライダーやオーグのビジュアル
安っぽいフェイスペイントのようなオーグの素顔はともかく、仮面ライダースーツやオーグマスクのビジュアルは非の打ち所がない。
蜘蛛オーグや蜂オーグのマスクは、アップで映り込む度に凝視してしまうほどに美しい。
最も素晴らしいのが、仮面ライダーのマスクから飛び出る襟足と、棚引く羽根のような黒いコートである。
これも冒頭のシーンに繋がるが、コートを着た仮面ライダーが画面で暴れ回っているだけで、言い表せない程の厨二心をくすぐる。
本当に格好いい。
加えて原作オマージュらしい跳ねた襟足も、放送当時のレトロ感や、本作の本郷君のコミュ障って設定から垣間見える美意識へのズボラさが現れていて、非常にエモい。
・変身シーンの格好良さ
本作の仮面ライダーは初期の仮面ライダーの設定に沿っているらしく、バイクに乗って風を受ける事で変身するのだけど、バイクの変形やマスクの展開など、非常にこだわってCGが造られているのがよく分かる。
バイク変形シーンは本当に格好いいし、本郷君が作中何度もマスクを被り直す描写も、厨二心をくすぐるポイントを分かってるなあと感じた。
2号ライダーの変身ポーズとかもまた格好いい。
・背景の美しさ
都内にあまり行かないので分からないが、シンゴジラでも出てきた(?)あの船溜りは本当に美しい。
両岸を繋いで電線が張り巡らされたあの河川が、未だどこにあるのか私は知らない。蒲田か?
加えて終盤で出てきた夕焼けのシーン…あの一コマを見るだけでも、相当ロケーションにこだわっているのが分かる。
場面の至る所で背景がこだわり抜かれていて、背景集を出したら間違いなく私なんかは買ってしまうと思う。
好ましくなかった点
・池松さんの棒読み
池松壮亮さんは本当にビジュアルだけなら100点満点の俳優さんなんだけど、いかんせんセリフが棒読み気味で、会話の内容が全く頭に入ってこない。
いや、正確に言うと演技自体はそこまで悪くない。
声質の所為かもしれないが、なんか声だけが異常なまでに抑揚がないんだよね。
喋る時に頭を上下に動かす癖も、なんとなく演技っぽさみたいなものを感じてしまう。
正直この映画で最も目についた点が池松さんの棒読みであった。
・設定多すぎ
この映画、異様なまでに設定が多い。
おかげで登場人物のセリフがべらぼうに長い。
シンゴジラのようなSFサスペンス風の作品ならまだしも、アクション作品でこの情報量の多さは致命的なのではないか。
浜辺さんがペチャクチャ喋る度に、ああもうこれ以上余計な情報を足していかないでくれと、少々うんざりした気分になってしまった。
なんにせよ、原作リスペクトするにしても、もう少し情報量を絞って欲しかったというのが本音。
・女性キャラの臭さ
シンゴジラのパターソンや尾頭さんを数倍濃くしたような女性キャラが出てくる。
ぶっちゃけ滅茶苦茶オタ臭い。
浜辺さんなんて正直観てられないくらい臭いキャラで、演技の良さとか全く頭に入ってこなかった。
アニメにしか出てこないような各々のキャラクター性が、リアルな説得力を損なう要因になっている気がする。
綾波を実写化したらどうなるかみたいな、触れてはいけない禁忌に触れてしまうような、そんな危うさがある。
・アクションシーンの不明瞭さ
蜘蛛オーグとの戦闘以降のアクションシーンは、はっきり言って観る価値がほぼ無かった。
突然ドラゴンボールばりのコマ落ち高速戦闘が繰り広げられたり、ランニングデュエルしながら空中バトルが始まったり…。
極め付けは終盤のエセライダーとの戦闘シーン。
画面が暗いし視点がブレッブレで、もう何やってるかさっぱり分かりません。
明度を暗くすることでCGの粗さを誤魔化したのだろうか。
ラスボス蝶オーグとの戦闘も、どっからどう見ても素人同士の取っ組み合いにしか見えません。
もうちょっと格闘シーンに説得力が欲しかった。
・コウモリオーグの全て
コウモリオーグについてはツッコミどころしかなくて詳しく書く気にすらならない。
キャラクター性もCGも酷いし、周囲の人物含め何がしたかったのかもよく分からない。
あそこが駄作と断じる転換点だった。
シナリオの破綻とかは勿論あるのだけど、これは特撮ドラマ由来の抜け感と捉えれば気にはならない。
ただ今挙げた点に関しては、正直私はどうしても気に入らないと感じてしまった。
今回に関しては大衆向け映画を期待して、マニアの領域に土足でズカズカ足を踏み入れてしまった私にも大いに非があると思う。
この辺りの線引きは公開前で窺い知ることは出来ないので、前評判を確かめることは大切だと改めて感じた。