「しっくりこない」シン・仮面ライダー 黒伊邪那岐さんの映画レビュー(感想・評価)
しっくりこない
舞台挨拶付きの最速公開を見てきた。
総じて、しっくりこなかった。の一言に尽きる。なぜなのか?見てる最中は漠然とした違和感しかなかったが、1日経って違和感の正体が具体的に見えてきた。
それは、「石ノ森のヒロイズムが感じられない。」の一点に尽きる。
私にとってライダーの醍醐味は、改造人間になった=人間でなくなってしまった悲哀にある。人として享受するはずだった幸せを理不尽に奪われ、それでも人(他者)のために、「正義」のために滅私奉公戦う、それが石ノ森のヒロイズムなのだと思ってきた。
[1.悲哀が無い]
「幸せを理不尽に奪われる」これを表現する対比が悉くこの作品では廃されてしまっている。
まずは改造前と後との対比が無い。
この作品では冒頭で、もう本郷はバッタオーグになっており、回想等でも改造前の様子は出てこない。「頭脳明晰、スポーツ万能、コミュ障…」とルリ子の短いセリフで語られるだけ。どんな青年で、何に幸せを感じ、どんな未来が奪われたのか全く想像がつかない。本郷猛の改造人間になってしまった苦悩があまり感じられなかった。
さらに、幸せな他者との対比も無い。
TV版に有った日常パートは、子供番組のお約束という側面だけでなく、幸せを謳歌する人々とその中に入れているようで入れていない改造人間との対比が、人でなくなった哀愁を強調していたように思う。翻って本作には日常パートと言えるものがほとんどない。人としての幸せを享受できない哀愁が漂ってこないのだ。
苦悩も哀愁もない、それはもはや仮面ライダーとして私には受け入れられない。童貞と揶揄されながらも教師として社会に溶け込もうと努力し、教え子を救うために素手でトラックを止めて居場所を失ったNEXTの方が、まだ、この辺の悲哀に関しては描けていた。
[2.何のために戦っているのかが見えない]
同じ戦うでも、私欲のために戦うのか、流されて戦うのか、正義のために戦うのか、平和のために戦うのか、何のために戦うのかでヒーローの格は決まるのだと思う。
だが、私には本郷猛が戦う目的が良くわからなかった。そもそも本郷猛がどういう人物なのか、今一つキャラが掴めない。1.でも述べたが、改造前の情報が無さすぎる。
父親が警官で刺された件は、序盤から匂わせていたが、種明かしは終盤近く。この種明かしが遅れたのがキャラを掴みきれない最大の要因だったと思う。父親の一件で力に対してどういう思いを持っているか、分かったうえで見るのと見ないのではだいぶ見方が違ってくる。それを後ろまで引っ張ったのはどういう演出意図なのか甚だ疑問だ。伏線は物語のスパイスだが、観客が主人公のキャラを掴んで見れるか見れないかはもっと重要だと思う。周回前提なのかもしれないが、それで初回がつまらなくなっては元の木阿弥だろう。
最序盤は、緑川博士に娘を頼むと言われたから戦っているのだが、緑川博士とどういう関係だったのか?も描かれず。恩師だったのだろうが、恩師と一言で言ってもピンキリだ。改造されたことに恨み言ひとつ言わず、初対面の娘を託され応じるのは、「優しすぎる」からなのか、恩があるからかこれも判然としない。
判然としないと言えば、ショッカーもだ。
オーグたちが各自好き勝手やっていて、組織として統制が取れているように見えない。Kが何をしたいのかもよくわからない。Kとオーグ達との上下関係や、松尾スズキ(が演じた創始者)と緑川との関係も?(そのあたりはヤングジャンプ連載のショッカーサイド漫画で詳らかになるのかもしれないが…)
蝶オーグ(ドクガンダーとイナズマンとV3の混合かな?)は、仮面の中の妹に説得されたくらいで改心する程度の覚悟なら最初からやるなよ。
敵が明確であればこそヒーローが輝くものなのに、これでは輝く物も輝けない。
結局、昔の恩師に頼まれてるうちに娘に惚れて、惚れたヨワミで言われるがままに兄妹喧嘩に介入していく、流され男にしか本郷が見えず、正義も平和も本郷の頭にあるのか懐疑的なまま泡へと消えてしまった。
逆に言うと、ルリ子への情はこれでもかというほど描かれていたので、ルリ子との別れのシーンだけは観客(私だけ?)と本郷の感情が一致して名シーンとなっていたように思う。
3.画が無い
上記全てに関わることだが、大事な部分を説明台詞で済ませすぎだと思う。説明だけで楽しめると思うのであれば、2時間、監督が出てきてあらすじを詳しく説明する映画を作ればいい。それでは楽しめないから、画が必要なのだろう。だが、主人公の人間性も、ショッカーの非道も肝心なところはルリ子が喋っているだけで画は1秒も出てこない。
私が、このリメイクに期待していたのは、ビッグマシンの容姿をロボット刑事に寄せることでも、ハチオーグの旧名をTV版・萬画版共通でルリ子の友人の「ひろみ」にすることでも、「13人の仮面ライダー」をこすり倒すことでもなく、哀愁漂う正義のヒーローの活躍だったのだが、それを見ることは叶わなくて残念だった。
とはいえ、良かったところが一つもないわけでは無いので、箇条書きで良かったところを書き出してみる。
・まさか、この作品でコンフィデンスマンシリーズよりはっちゃけた長澤まさみ氏を見られるとは思わなかった。
・各オーグのデザインが秀逸。原典要素0かと思ったハチオーグもおっぱい装甲がきちんと元ネタ準拠だったり、蜘蛛も六角形×3でありつつ生物としての8目もあるデザインだったり素晴らしい。
・きれいな風景が多い。
・戦闘シーン…賛否が割れているようだが、個人的には凄く良かった。下級戦闘員への血飛沫溢れる一方的虐殺、クモオーグ戦、サイクロン号による空中戦、ハチオーグの高速移動、1号VS2号の肉弾戦、2号VSカマ・カメ戦、ショッカーライダーとのカーチェイス、最終決戦どれも「おおっ!」となった。確かに何をしているかわかりづらい構成も多かったが、それも味と楽しめた。
・各役者の演技…これも賛否あるみたいだが、私は全体的に良かったと思う。
・緑川ルリ子がショッカー製の人造人間。一長一短だがこの設定変更によりルリ子を女サイドキックとして明確に位置付けたのは良い試みだったと思う。何より目が光る浜辺美波がかわいい(笑)