「ここに新たなタイムループ映画が誕生!」隔たる世界の2人 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
ここに新たなタイムループ映画が誕生!
昨夜ベッドを共にした女性の脇で目覚めた黒人青年が、彼女のアパートを出て帰宅する途中で、何度も何度も警官に殺される悪夢に悩まされる。どんなに工夫しても彼は殺される運命にあり、そこから抜け出せないまま、また、同じ悪夢を繰り返すことに。『パーム・スプリングス』がエンジョイするタイムワープならば、こっちは一度引き込まれたら二度と抜け出せない人種差別のタイムワープだ。青年が体験する消えることのない恐怖と閉塞感は、アメリカで暮らす全ての黒人が日々感じていることに違いない。BLMムーブメントの本質を、皮膚感覚として伝えようとする本作は、その目論見に成功している。上映時間32分の短編映画というフォーマットを用いているから、タイムループものにありがちな"くどさ"とも無縁だ。従って、近く発表される第93回アカデミー短編映画賞の本命。果たして、彼は繰り返される死の恐怖から脱却することはできるだろうか?深い絶望をスタイリッシュな演出と音楽でくるみ、短い時間の中に無駄なく閉じ込めた本作は、4.26のオスカー発表前にできればチェックして欲しい秀逸なショートフィルムである。
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