「死ぬ日を決めたら、死が怖くなくなった。」ブラックバード 家族が家族であるうちに 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
死ぬ日を決めたら、死が怖くなくなった。
死を目の前にした祖母の元にあつまった、久しぶりに会う家族。取り乱していないリリーを映すことで、夫と友にこの決断に至るまで、どれだけの葛藤を繰り返し、落ち着きを得たのかが、画面からヒシヒシと伝わってくる。当の本人が(表面上だけでも)一番明るく振る舞う光景の、痛々しさとすがすがしさの共存する空気のやるせなさ。家族に囲まれて死ぬ幸せ、自分の死に時を選ぶ勇気。ここにあるのは倫理でも法でもなく、一人の人間の死ぬ権利なのだ。
ずっと"人間の尊厳とは何か"、を問いかけてくる。
果たして自分が自分の死期を知った時、どうなるのか。
リリーのように、気高く逝くことができるのか。
少しでも生を永らえたいと縋るのか。
自分の家族は許すのか。
そもそも自分の家族は、みな自分の味方なのか。
まるで生前葬のようなお別れの会をすべきなのか、黙って逝くべきなのか。
この家族が、正解、なのか。
ずっと、ずっと問いかけくる。自問し、自責が襲い、困惑がこびりつき、羨ましさや、懐疑や、あきらめの感情が錯綜する。そして、この家族の混乱と行く末を見守りながら、自分の終活のサンプルを見届けたような気分になった。
単なる家族賛歌じゃないかと思ったが、個人的に、制作にイギリス人が混じってる(米英合作)時点で信用し、その期待通りだった。「くっついたり離れたりは、本気で愛してないか、本気で愛しているか」とか、「自ら安楽死を選ぶ人は、鬱などではなく、知的で明快で分析的である。」とか。
コメントする