「昨日の敵は今日の友!決してそんな言葉では補いきれない人種の違い!!」クレッシェンド 音楽の架け橋 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
昨日の敵は今日の友!決してそんな言葉では補いきれない人種の違い!!
平和へのメッセージを込めたコンサートが企画され、70年以上も紛争中のパレスチナとイスラエルから若者たちが集められる。
共通の目的によって、敵同士が互いに理解を深めるという物語は、今までも『戦場のアリア』や、南北関係を描いた韓国映画『スティールレイン』『天軍』なども、たびたび描かれているが、今作は、音楽映画としての側面もしっかりと描かれている。
一歩先は紛争によって物理的だったり、精神的な問題に直面するという悲惨な物語と音楽映画のサクセスストーリー的要素が、絶妙なバランスで共存している作品である。
紛争地帯に住む者は、オーディションに行くにも、練習しに行くにも、いちいち検問を通らなくはならない。
それでもコンサートを成功させたいという想いは、土地が奪われたり、戦車に家が破壊されるかどうかの不安や、先祖たちが残してきた、負の連鎖から抜け出したいという気持ちが後押ししている。
ところがその一方で、決して簡単には埋められない溝が立ちふさがる。
パレスチナとイスラエル、ユダヤ人とアラブ人の間には、紛争による溝の他にも、宗教や潜在的な価値観や概念が邪魔をしていて、決して分かり合えない存在同士でもあるのだ。
そもそもコンサートを行うことになった発端は、現状を把握できていない慈善団体がなんなく、「平和っぽい」からということで、進められた企画である。
しかし、そうでもしなければ、互いに向き合うという機会すらもなかっただけに、慎重になり過ぎて動かない政府よりも、理由は何であれ、慈善団体の思い付きのような行動も時には必要だと思わされた。
オーケストラというは、全体が一体となって奏でるハーモニーが大切だというのに、シンクロするには敵対視する相手と心を通わせなければならないという、かなりの無理難題ではあるが、若い世代は、直接的な敵視というよりは、家族などによって植え付けられた潜在的なものであることから、言ってしまえば浅い知識の状態で敵視している部分も強い。
新しい世代は、分かり合えるかもしれないという希望も提示される一方で、やっぱり現実問題は厳しい状態であるという、希望のもてる結末ではあるものの、決してストレートなハッピーエンドとしては、終わらない作品だ。