テーラー 人生の仕立て屋 : 特集
あり得ない組み合わせが予想外の感動を呼ぶ“良質作”
崖っぷちの高級スーツ職人が起死回生に選んだのは、
何とウェディングドレス!しかも移動式屋台で売る!?
日本には毎年、世界中から良質な映画がひっきりなしにやってきます。今回紹介するのは、太陽の国・ギリシャが舞台の「テーラー 人生の仕立て屋」。9月3日から公開です。
主人公は伝統と格式を重んじる高級スーツ職人の男性。どっしりと路面に構える格式高い店は、折からの不況により債務超過が続き、まさに状況は崖っぷちそのもの。そんな彼が起死回生のため新規事業を始めます。その内容はなんと、スーツとはまったく異なる“ウェディングドレス作り”! しかも自分の店ではなく、移動式の屋台で売り始めて……。
美しいギリシャの風景をバックに、高級スーツ職人がウェディングドレスを作るという、予想外で“あり得ない”物語が展開。登場人物が織りなす心地よい時間は、あなたの心や体のすみずみまで“極上の幸福感”で満たしてくれるはずです。
この記事では、本作の見どころを「物語と設定」「製作陣のこだわり」「著名人の感想」の3つにわけてご紹介します。
奇想天外だけど、幸福の予感がする物語! 希望に溢れ
前向きな気分になれるフィールグッド・ムービー
[あらすじ]
名作「フォレスト・ガンプ 一期一会」に、「人生はチョコレートの箱のようなもの。開けてみるまで中身はわからない」というセリフがあります。同作の言葉を借りるならば、この「テーラー 人生の仕立て屋」はさしずめ、「人生はカラフルな飴玉。食べてみるまで味はわからない」でしょうか。
寡黙なニコス(50歳)は、ギリシャ・アテネで36年間、高級スーツの仕立て屋を父と営んできた。しかし不況により店は銀行に差し押さえられ、さらに父は倒れてしまう。崖っぷちのニコスは店を飛び出し、手作りの移動式屋台で仕立て屋を始める。50歳からの再スタート!
しかし値段も高く、完成まで時間がかかる高級スーツは道端では全く売れず(当然だ)、商売は傾きに傾く一方。ため息交じりに雑踏を見つめていたその時、思いがけないオファーが舞い込んできた。
「ねえ、娘の結婚式があるの。あなた、ウェディングドレスは作れる?」
これまで紳士服一筋で、スーツ以外は作ったことがないニコス。できないかもしれない、けれども「できますよ」と引き受け、オーダーメイドのドレス作りを始めるが――。思い切って一歩を踏み出した生真面目な高級スーツ職人が、世界に一着だけのドレスとともに“新たな出会い”“幸せな笑顔”を仕立てていく。
[気分が落ち込む今だから]本作で、幸せな時間に浸りませんか?
新型コロナウイルスの感染拡大により、大切な人と会ったり、世界中を旅行したりすることが、思うようにできなくなってから約1年半が経過しました。依然として気分が落ち込みやすい今日このごろですが、本作はそんな気持ちをリセットするのにピッタリの1本です。
主人公・ニコスが暗澹たる状況にも絶望せず、できることに挑戦し、人生を切り拓いていく姿には勇気をもらえるはず。そしてアクロポリスやゼウス神殿にほど近いアテネ中央市場や、エーゲ海クルーズの拠点であるピレウス港などの風景が映し出され、旅情を掻き立ててくれるでしょう。
さらには日本とはかなり趣が異なる結婚式の風景も映し出され、鑑賞中は異文化にどっぷりと浸るような気分に。観客の心を一息にギリシャへ連れ出して、癒やしと幸せをもたらしてくれる――明日も頑張ろう、そう思いながら映画館を後にできる一本です。
【良作保証】本国ギリシャで絶賛の嵐!
製作・俳優陣のこだわりが詰まった、宝石のような逸品
[群を抜く品質]ギリシャの映画祭で三冠達成
物語が良いだけでなく、映像、音楽、演技、すべてが合わさった“完成度”もかなりのもの。本国ギリシャで最大規模の映画祭「テッサロニキ国際映画祭」で絶賛を巻き起こし、授賞式ではギリシャ国営放送協会賞、青年審査員賞、国際映画批評家連盟賞の“三冠”を達成しました。
国外でもその喝采はやまず、イタリアのベルガモ・フィルム・ミーティングで最優秀監督賞と観客賞をダブルで受賞。さらに海外メディアも「きらびやかで色鮮やかで明るくて、まるで完璧な1杯のカクテルのよう」「一歩踏み出すのはいつだって遅くないと教えてくれる感動作」など称賛。本作、実はかなりの話題作なんです。
[監督]世界注目の若手監督が、コメディにも衣装にも魂込める
監督・脚本を手掛けたのは、社会学の学士号を持ちながら映画製作に打ち込み、本作で長編デビューを果たしたソニア・リザ・ケンターマン。英国で最も歴史ある映画学校ロンドン・フィルム・スクールで学び、“次世代のアキ・カウリスマキ”とも期待される新鋭の女性監督です。
本作の特徴の一つは、細部にケンターマン監督のこだわりが詰まりに詰まっている点。鑑賞していると“独特のユーモア”が強く印象に残りますが、その源は“無声映画”のエッセンス。バスター・キートン、ジャック・タチ、ジャン=ダニエル・ポレらの出演作を研究し尽くし、スタイリッシュな映像美のなかに、どこか懐かしいコミカルさを散りばめました。
さらにスーツとドレスも監督こだわりの“職人芸”。登場するドレスはすべてベルギーのデザイナー、ジュリー・ルブランがデザインしたオーダーメイド。主人公ニコスのスーツは、ギリシャに生地専門店を構えるタキス・ストゥルナラスが一から生地を選び、仕立て屋のイリヤス・マラグコスが丁寧に仕上げています。
[主演]一度見たら忘れられない!ちょっと変わった“強烈”キャラを愛くるしく好演
ニコス役は、ギリシャで活躍するベテラン、ディミトリス・イメロス。どうですかこの佇まい。一度見かけたらずっと記憶に残り続けるような、とてもユニークな存在感を放っています。
その相貌は、例えるなら「ローワン・アトキンソンとシルベスター・スタローンを足して2で割った」よう。監督こだわりの無声映画のエッセンスを全身に宿し、50歳でまったく新規事業に挑むことになった主人公ニコスを丁寧にユーモラスに、かつ愛らしく表現。困難が現れるたび、不器用なりに“ひたむき”に乗り越え、彼自身や周囲の人々を幸せにしていく。そんな姿を見ていると、不思議と観ているこっちが「頑張れ~!」とエールを送られているような気分になってきます。
【日本でも高い評価】著名人らの感動の声、続々
谷川俊太郎、小堺一機、アンミカらが語る
最後に、ひと足先に本作を鑑賞した著名人たちのコメントを紹介し、この特集を締めくくりましょう。あの人も、この人も称賛に声を寄せてくれました。鑑賞のご参考にどうぞ!
谷川俊太郎(詩人)「ちょっとリアルで、ちょっとロマンティックで、間抜けのようで素晴らしい! こんな美味しい映画、初めて!」
小堺一機「人生毎日テーラーメイド、ウェディングドレスで主人公は何と未来を誓ったのか自分の人生を初めて採寸した彼の笑顔! しびれた!」
光石研(俳優)「どんな『人生』にも中年オヤジは、自前のダンディズムで立ち向かうのは世界共通! この役、やりたかったー!」
アンミカ(モデル・タレント)「美しいギリシャの青空の下、登場する人々の輝く笑顔に心が温まり幸せな気持ちに! 求められるところに人は役割がある。一生懸命取り組めば道は開き人生も仕立て直せる! 心に勇気がもらえる、今の時代に見てほしい作品です!」
篠原ともえ(デザイナー・アーティスト)「スーツからドレスへと変幻するように、主人公ニコスの人生も華やかに仕立てられてゆく。服で窮地に立たされ、また救ってくれたのも服。縫製の美しいシーンとともに、輝ける生き方を教えてくれる映画!」
尾崎秋彦(映画.com編集部)「映画のオープニングには作り手の“覚悟”が込められている。本作はニコスのモーニング・ルーティンで始まるが、スーツを丁寧に着こなす様はひたすら小気味よく、彼が1秒1秒を愛おしんでいることが伝わりずっと観ていられる。洗練されているということは、丁寧であることなのだ。そして丁寧であるということは、整理整頓されていて、急がないこと。急がないということは、動作のひとつひとつを楽しむこと。人生を居心地良く過ごすための“大切な何か”を教えられたような気がして、着る機会がめっきり減ったスーツを新調したくなった」