「虚実揺籃」先生、私の隣に座っていただけませんか? t2law0131さんの映画レビュー(感想・評価)
虚実揺籃
クリックして本文を読む
書き進められている物語と、いまそこに有る現実とがシンクロしていく発想は、小説と現実を行き来する「鳩の撃退法」(タカハタ秀太監督)と同様だが、こちらはマンガ。それゆえ、描かれているマンガのコマから実写への転換が自然で、観客に虚実の錯覚をうまく引き起こす。「鳩の撃退法」は絡み合った荒唐無稽な犯罪に巻き込まれるストーリーだが、こちらは不倫。果たして夫の不倫を妻は知ったのか?復讐で妻も不倫をしたのか?漫画家の妻が私小説的に描く物語は真実なのか?フィクションなのか?それを読む唯一の読者である夫は妻の不倫を信じるのか?なかなか見せる脚本だ。少なくとも「鳩」より発想の生かし方がうまい。なぜなら「鳩」は佐藤正午原作の小説だからかもしれない。小説家がこのテーマ(作品と現実のシンクロ)とを発想すれば、「作品」は「いままさに、書かれ続けている小説」になるのは自明だろう。本作は映画向けの作品コンテストの準グランプリが原作という。映画的なアプローチならばマンガとのシンクロは当然な帰結なのだろう。「鳩」は原作のために映画的に窮屈になり、本作は見事に映画的にドラマが飛翔している。脚本の整理が少々もたつく場面もあるが、それでもラストカットまで謎を秘めて終わらせる仕上がりに満足する。
コメントする