「現実と妄想(ネーム)の境界線を曖昧にする脚本の妙」先生、私の隣に座っていただけませんか? kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
現実と妄想(ネーム)の境界線を曖昧にする脚本の妙
マンガを描く最初の段階でコマ割り、ページ構成、キャラの動きやセリフといったものを大まかに書いた下書きをネームという。なんでネームというのか気になったから調べてみたらnameの指定するという意味からとった言葉で、セリフの級数とかフォントを指定するところから始まったんだとか。なるほど。
本作で出てくるネームは一般的な大ざっぱでラフなものではなく、結構描き込まれているもの。もはや下書き。これで編集さんと話して修正することになったら大変だななんてことを考えてしまった。映画として観やすくするためのフィクションだから仕方ないんだけど。ま、それに編集さんに見せるつもりなのかも曖昧。
さて、マンガ家夫婦の不倫を描いた本作。妻が描き始めたネームを夫が見てしまったところから盛り上がってくる。妻が体験していること(事実)と、マンガのネーム(妄想)との境界線がうまくごまかされた面白い脚本だった。柄本佑の抑えた感じでいながら笑いの起こせる演技と、黒木華が徐々にキレイになっていく変化・何を考えているのかわからないミステリアスな演技はやはりすごかった。
終わり方もなかなかいい。タイトルはどの先生に向けたものなのかって考えていたが、それもいい落とし方だった。
パートナーの浮気はどこまでを許せて、どこから許せないのか。人によって異なるのだが、その繊細なラインをうまく描いていた脚本だったと思う。そして、普通の形とは違うが妻の愛も描かれていたように感じる。こんな感想は男だからなのかな。目立つ作品ではないが面白かった。