最後にして最初の人類 : 特集
「メッセージ」天才音楽家が伝説的SF小説を映画化
自宅で新しい映画体験を
話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日11月26日から「最後にして最初の人類」の独占配信がスタートしました。
「メッセージ」「ボーダーライン」「博士と彼女のセオリー」などの映画音楽を手がけたアイスランド出身の作曲家で、2018年に早世したヨハン・ヨハンソンが生前に取り組んだ最初で最後の長編監督作品。
1930年に刊行されたオラフ・ステープルドンの同名SF小説をもとに、ティルダ・スウィントンのナレーション、旧ユーゴスラビアに点在する巨大な戦争記念碑・スポメニックを全編16ミリフィルムで撮影し、ヨハンソンが奏でるサウンドを付けて映像化。もともとはシネマコンサート形式で生演奏とともに上映されていたもので、仲間たちの尽力により、ヨハンソン没後2年後に、長編映画として完成した作品です。このほど、映画.com編集部と本作買い付けを担当した配給会社スタッフが見どころを語り合いました。
「最後にして最初の人類」(ヨハン・ヨハンソン監督/2020年/71分/G/アイスランド)
<あらすじ>英国の哲学者で作家オラフ・ステープルドンの「最後にして最初の人類」(1930/邦訳は絶版)が原作。20億年先の未来に生きる人類第18世代のひとりが、20世紀に生きる第1世代の私たちにテレパシーで語りかける。
座談会参加メンバー
駒井尚文編集長(映画.com編集長)、和田隆、荒木理絵、今田カミーユ、中川慧輔/配給会社シンカ
■宇宙的な造形の巨大廃墟映像に想像力が掻き立てられる
和田 いやあ、想像力が掻き立てられる壮大な作品ですね。
駒井編集長 人間が出てこない、風景だけが延々続く、珍品的な映画ですよね。
荒木 スポメニックをこの映画で初めて知りまして、気になりすぎて写真資料集買ってしまいました。
和田 おお!
荒木 巨大建造物とかモニュメントが大好きな人はたまらない作品だと思います。たまりません、あの造形美。
中川 スポメニックのビジュアルは衝撃的ですよね、非常に有機的なデザインで、宇宙人や宇宙船みたいにも見えます。
荒木 旧ユーゴスラビアにはああいう巨大な記念碑が全国至る所にあるんですね。コロナ後に絶対行きたい場所になりました。
中川 旧ユーゴが多民族国家であったため、特定の宗教のモチーフなどは使えず、あのような原始的なデザインになったと言われています。
駒井編集長 ロシアもそうですけど、旧共産圏には巨大なモニュメントがあちこちにありますよね。北朝鮮にある金日成の像みたいなの。だけど、このスポメニックは異様ですね。私も初めて見ました。
荒木 ティルダがはるか未来から人類へ語りかける声をやっていますが、音楽と映像と相まってものすごく神秘的です。人類滅亡、オタクの心に刺さるテーマですね……。
中川 個人的にもとても行ってみたいですが、旧ユーゴ圏の複数の国に分散していたり、かなり人里離れたところにあったり、すべて回るのは結構大変だそうですね。
■ドゥニ・ビルヌーブ監督作「メッセージ」との関連性駒井編集長 この映画って、ドゥニ・ビルヌーブの「メッセージ」の副産物ですよね。ヨハンソンが映画音楽を担当した。
中川 自分もその可能性はあると思っていました。ヨハンソンは「メッセージ」に参加した際にこの原作に触れたのかも知れませんね。
駒井編集長 20億年先の人類が、「あなたたちを助けます。私たちも、あなたたちに助けて欲しいのです」って設定が「メッセージ」と同じ。
中川 前後的な過去未来でなく、全ての時間が同時に存在している、と言う考え方も一致しますね。
■眠りに落ちるか、覚醒するか……異次元にいるような感覚を呼び起こす映像体験今田 ヨハンソンの音楽とティルダ・スウィントンの語りに催眠効果もあり、鑑賞中は違う次元にワープしている感じでしたね。配信は、原作者ステープルドンの示唆に富んだ言葉を確認できるのでありがたいです。
駒井編集長 そのノンリニアな地球感と、スポメニックのディストピアな造形を組み合わせるセンスは天才的だと思います。そこに、ヨハンソンのアンビエントな音楽。ユーザーレビュー読むと、「寝た」って人がけっこういますよね。寝るか、覚醒するか、どっちかではないでしょうか。この映画は。
荒木 本当ですね、あの音楽! ぜひ部屋を暗くして温かいものでも飲みながら見ていただきたい。退廃的ながらヒーリング効果抜群です。私は何度も寝ました……。
和田 どこか懐かしさも感じる映像と音楽の融合で、学生時代に見たデレク・ジャーマンの作品と対峙した時と同じ感覚に陥りました。なんかすごい映画と出合ったなとw
駒井編集長 私は、週末に家で「マトリックス」3部作をイッキ見した後に、この「最後にして最初の人類」を見たんですが、「マトリックス」疲労がだいぶ癒されました。カームダウンできた。おかげでよく眠れたし。
中川 とにかく音楽が素晴らしいですね。自分は早朝の試写で見た際も、ガッツリ覚醒でした! ナレーション無しバージョンとかあれば延々部屋で流したいです。笑
駒井編集長 16ミリフィルムの質感もマッチしてますよね。
荒木 情報が少ないって良いですよね……お話の展開がなくても、ハイビジョンでくっきりしてなくてもいい。
今田 足りないものを想像力で補う喜びがありますよね。
荒木 ジャパニーズ・禅の精神ですかね……
駒井編集長 「GUNDA」や「最後で最初の人類」は、NHKのEテレとかで深夜の3時ぐらいにオンエアして欲しい。毎日。私が学生だったら、それ毎日見ると思う。
荒木 確かに! 荒ぶる精神を落ち着かせてくれるから。
駒井編集長 しかしヨハン・ヨハンソンにとっては、「最後にして、最初の監督作品」になってしまったのがとても残念です。
■買い付けの動機は“「新しい映画体験」を楽しんでもらいたい”和田 中川さん、本作の買い付けの経緯などを可能な範囲で教えてもらえますか?
中川 本作は、とある方に作品をご紹介いただいたのですが、コロナ禍という状況の中で、シンカとしても今の時代にどういう映画を日本のお客さんに届けるのか、ということと改めて向き合っていた時期でした。非常に実験的な作品ではありますが、「新しい映画体験」を楽しんでもらいたい、というところが本作を買い付けた大きなポイントでした。
今回配信でご覧になる方も、できるだけ、大画面・大音量で、部屋を暗くして、スマホなんかも遠ざけて、一緒にトリップする感覚で見ていただきたいですね。
■原作はカルトSF作家のオラフ・ステープルドン今田 私はこの映画のおかげで、原作を図書館で借りたり、古本で別の作品も買うほどハマってしまいました。最近、ちくま文庫で「スターメイカー」が改訂訳で発売されましたね。
中川 原作では人類が何度も滅亡の危機と進化を繰り返す様子を細かく描写していますが、奇しくもコロナ禍という人類単位での未曾有の事態に直面した時代に、リンクするところもあるのかも知れません。「スターメイカー」の再販は偶然にも近い時期に動きがあったのですが、この映画の原作「最後にして最初の人類」の再販も期待したいですね。
駒井編集長 カルトSF作家ですね。オラフ・ステープルドンは。
中川 原作はかなり長大な人類史ですが、ヨハンソンの映画版は序盤と終盤にフォーカスしてかなり大胆に脚色しています。「人類そのものが音楽である」といった言葉も出てきますので、音楽家であるヨハンソンが本作を原作に選んだというのも必然性を感じます。
今田 その「音楽」が、ヨハンソンによって奏でられているのが、映画でしかできないことだなあと感動しました。
駒井編集長 原作と「スポメニック 旧ユーゴスラヴィアの巨大建造物」を図書館で予約しました。原作読むの楽しみです。スポメニックは、必ず現物を見に行くと決めました。
あと、この映画にハッシュタグつけてみました。
#ヨハンヨハンソン
#スポメニック
#ドゥニビルヌーブ
#三体
#2001年宇宙の旅
#プロレタリアアート
#ティルダスウィントン
#オラフステープルドン
和田 お客さんのターゲットはどの辺を想定されて宣伝されたのですか?
中川 実験的かつ、いわゆる劇映画とは異なる作りの作品なので難しくもありましたが、まさに駒井さんが付けてくださったハッシュタグにピンとくる方に見ていただきたい、という思いでした。
今田 そういった意味でも本当にいろんな角度から楽しめる映像作品です。
中川 はい、映像、音楽、文学、建築、どの角度から見ても楽しめるまさに総合芸術ですね。