劇場公開日 2022年2月11日

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「南部の木には奇妙な果実が生る。」ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5南部の木には奇妙な果実が生る。

2022年2月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ビリー・ホリデイについての知識はほぼゼロ。サザンの桑田が歌ってた昔のシンガー、くらいのものだった。タイトルからは、国家権力に抗った黒人歌手、という印象があったがちょっと違ってた。それよりも、黒人社会を押さえつけるために、格好の標的とされた有名人ビリーの悲劇、といった一方的なものだった。
映画は、すでに売れっ子となってからのビリーで始まる。そこで「奇妙な果実」という歌に対する思い入れの強さを訴えながら、これが当局との軋轢の元であることを知る。その意味するところは、劇中でも衝撃をもって登場する。彼女がこの歌を歌う理由も、それを英雄視する同胞たちの気持ちもよく伝わってきた。伝わってきたのはなにも、ただこの歌のメッセージ性が強かっただけではなく、演じたアンドラ・デイの歌声が素晴らしかったからだろう。
映画の中で描いたビリーの人生も強烈なのだが、帰ってから調べて知った生い立ちなども人生を踏み外すには十分の出来事ばかりだった。そんな彼女の人生は44歳という短い生涯だったにせよ、少なくとも世にその存在を知らしめるだけの足跡を残せた分、ほかの同胞に比べて幸せだったのかもしれない。そう、彼女のステージを歓迎する観客を見渡せば、黒人も白人も老いも若きも、皆笑顔と盛大な拍手で登壇を出迎えているのだから。
最後に、反リンチ法の現状がテロップで流れた。それほどこの法案に対する抵抗勢力が根強いのか?それとも、もうこんな法案はなくとも共存できる世の中になったのか?
人権問題は根が深い。

栗太郎