「指令と信念」ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0指令と信念

2021年9月21日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

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知的

今年のアカデミー賞で作品賞にノミネートされ、助演男優賞(ダニエル・カルーヤ)と歌曲賞を受賞したのにも関わらず、日本劇場未公開。
まあ、無理もない。
ブラックパンサー党? MCUヒーローですか?
フレッド・ハンプトン? 誰?
日本人には分かり難い作品の典型。

とは言え映画なので、ストーリーはあり、時代背景は説明してくれる。
1968年のシカゴ。黒人青年のウィリアム・オニールはFBIに成り済まして車を盗もうとして、逮捕。そんな彼に、FBI捜査官のミッチェルが取引を持ち掛ける。それは、ブラックパンサー党イリノイ州副議長フレッド・ハンプトンの動向を探る事だった…。

パッケージはB級チックなサスペンス・スリラーだけど、
1960年代後半~1970年代に黒人の人権と解放の為に闘ったブラックパンサー党。
その重要人物の一人、フレッド・ハンプトン。
彼が暗殺されるまで。
実話を基に描く。

カリスマ性に溢れたハンプトン。
それを体現したダニエル・カルーヤ。
存在感や演説シーンは熱い。
『ゲット・アウト』で注目され、一気に売れっ子へ。
今回の賞レースでも前哨戦はほとんどノーマークだったが、突如浮上し、勢いそのまま受賞へ。
まさしく今、キャリア絶好調!

カルーヤの土壇場ではなく、オニール役のラキース・スタンフィールドも良かった。
FBIのスパイとして、ハンプトンに近付く事に成功。彼に気に入られる。
するとオニールも、カリスマ的なハンプトンに魅せられていく。
彼の信念か、スパイ指令か。オニールが選んだのは…。
スタンフィールドこそオスカー超サプライズノミネートと言われたが、複雑で葛藤する役柄を印象深く演じ、非常に旨味があった。

マルコムXに続いてキング牧師も暗殺。
差別、偏見、時には暴力に殺人…この時代は黒人たちにとって苦難の時代。
そんな時に立ち上がったブラックパンサー党。
黒人や貧困層の自衛や解放の為に!
が、過激組織。武装も厭わない。
警察やFBIがマークするのも無理はない。
が、そんな警察は応戦。立場を保身。昔も今も変わらない。
ブラックパンサー党は彼ら自身や多くの黒人たちの為に。
警察やFBIは人々や治安の為に。
それぞれに信念がある。正義がある。守るものがある。間違った事もある。
善悪。白と黒。そんなんじゃ割り切れない。

実録映像も挿入。
社会派作品だが、襲撃シーンなどの緊迫感はサスペンス映画かアクション映画を見ているよう。
そして、劇中のハンプトンさながら強く闘うメッセージ…。
革命は殺せない。
紛うことなき一級の作品。

だけど、ここまで言っておきながら、自分にはちょっとハマらなかったかな…。
今まで聞いた聞いた事あったけどよくは知らなかったブラックパンサー党について、フレッド・ハンプトンという人物とその事件を知り、我々が忘れてはならない事、伝え続けていかなければならない事さえでも知れただけでも…。

近大