「この映画、家族愛がテーマに見せかけているが実はそうではない。」グリーンランド 地球最後の2日間 roshさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画、家族愛がテーマに見せかけているが実はそうではない。
主人公一家に感情移入している人には、如何にも家族愛がテーマの映画であるかのような演出で気付かれないようにしているものの、一家の実態は飛び立とうとしている飛行機に向かって突撃してくる群衆達と全く同じメンタリティである。そのような、いわゆるモブの中からピックアップして主人公バリアを張っているに過ぎない存在。それが主人公一家なのだ。
彼らとは対照的に、人々の逃亡を手助けしている軍人やパイロットは職務に忠実でありながら良心と服務規程の許す限り精一杯の便宜を図る高潔な人間ばかりなのだから、これは明確に意図的であろう。
ヒーロー性のあるような人物が活躍して生き残るような映画でも、その影で何だかんだで助かるモブ達も大勢居る。その中の一人を描いてみたかったというのがこの映画の主旨ではないだろうか。
それで肝心の内容が面白かったかというと、首を捻ってしまうような出来であった。ひたすら周りに要求してはヒステリックに喚き散らす夫妻の珍道中は、倫理観を刺激しながらストレスが溜まるばかりなのだから仕方ない。そっちの方がリアルと言えばリアルではあるのだろうが、軽飛行機のパイロットが神業的な技量で墜落を回避しながらも自身は死亡するというシチュエーションの方にドラマを感じるのが映画というものなので、やはり面白かったとは言い難い。
それと、この設定にしたのは何らかのメッセージがあるのかもしれないが、インスリン必須の糖尿病患者を抱えておきながら、文明など消し飛んで荒廃してしまった世界で、生きていく希望に満ちあふれているかのようなラストの演出にはどうしても疑問符を浮かべてしまう。何とも後味のよろしくない映画だった。