「意外に面白く、普遍的なことが描かれている」そして僕は途方に暮れる R41さんの映画レビュー(感想・評価)
意外に面白く、普遍的なことが描かれている
結局、最後は大好きな大沢誉志幸さんの曲が流れてきた。
曲から物語を思いついたのか、作品のタイトルを曲と被せたのかわからないが、タイトルはこの作品に似合っていることにしておこう。
物語全体を通して、一つ一つにオチのようにどんでん返しと結末がある。
そしてモチーフとなるのが「映画」という言葉。「ねじ巻き鳥クロニクル」の「シナモン」の型を使い、後輩の助監督がこの作品全体を作っているという構成なのだろう。
父と一緒に映画を見て、父は「ハッピーエンドで意外につまんなかったな」というあたりがこの作品そのものの脚本を主人公のユウイチが書き、映画にしたということだろう。
ゲス男の主人公は誰から見ても共感できないが、そういう人は少なからずいるのかもしれない。
ユウイチのしっちゃかめっちゃかな生き方と父の生き方は似ており、「逃げて逃げて逃げ続けろ」と言いながらも、人生のタイミングを教え、無理やり里美に電話させることがきっかけで、ユウイチが父と一緒に生活していることが皆に知れ渡ることになる。
父の言う「世間とかかわらない生活は囚人と同じだ」という言葉は非常に強い言葉で、ユウイチの感情を揺さぶる。
母が倒れ救急車に運ばれたという里美からの伝言も5日間も放置していたが、慌てて駆け付けようとする自分と「面倒くさい」と言った父を罵倒するほど、実際ユウイチの心は死んでいない。
心配で駆けつけてくれた里美と伸二。にもかかわらず一人で食事しようとするユウイチに、姉がキレた。
ユウイチはようやく謝ることができた。
いま俺変わろうとしているけど、どうしたらいいかわからない。自分の中で何が本当なのかわからない。何かしないといけない…
彼の言葉はよくわからないものの、彼なりに自分と真摯に向き合っていることが伝わってくる。
伸二が話した「ユウイチという人間の中の、ただの失敗」という言葉は、本当にその通りだと思った。
里美の態度も、彼を許している。東京、まだある戻る場所はある…
物語は一旦クライマックスを迎える。父の登場と4人で過ごす年越し。
そば二人、カップそば二人というのも面白い。
すべてハッピーエンドかと思われたが、美里は伸二と付き合っていた。
すべてはユウイチが原因だ。
後輩からの電話「先輩、どうなりましたか? 結末教えてください」
「まだ終わってない。面白くなってきやがった」
後輩に対し父の言葉を遣ってみた。
最後は冒頭のシーンと同じカットで終わる。 しかし表情は全然違う。逃げ隠れする目と退職的に挑戦する目になっている。
この「面白くなってきやがった」という言葉は、人生を変えていくための普遍的な強い言葉だ。
俺は人生に陥っているんじゃない。このピンチを楽しんでいるんだ。
嘘でもいいからこの言葉を遣うことで、必ずピンチをチャンスにできる。
この作品はクソ男で共感できず、結局やってしまったことのツケを支払わされるうえに、ひねくれたクロニクルで表現しているものの、この普遍性を強く描いている。
つまり見るべき点はその1点しかない。