「映画鑑賞中、拍手をこらえるのが大変なくらい圧巻のライブパフォーマンス」アメリカン・ユートピア えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
映画鑑賞中、拍手をこらえるのが大変なくらい圧巻のライブパフォーマンス
元トーキング・ヘッズのデビッド・バーンが2018年に発売した同名のアルバムを題材に、2019年秋からブロードウェイで上演された舞台をスパイク・リーが映画化した作品。ブロードウェイといってもミュージカルや演劇ではない。かといってコンサートと言ってしまうとだいぶ違う。衣装やセットなどを極限まで排除し、歌、マーチングバンドによる演奏、ダンス、照明を中心にした舞台演出抔、全てが計算しつくされた、総合エンターテインメント芸術とでも呼べるだろうか。その100分ほどの舞台パフォーマンスを見事に映画に仕立てた作品。
1984年、テレビから映し出されるロサンゼルスオリンピックの映像は、幼かった頃のわたしよ脳みそに鮮烈に焼き付いている。開会式では宇宙服を着た人が空を飛び、マスコットのイーグルサムは期待を裏切らないイメージ通りにアメリカ的で、主要な種目で金メダルを総なめにしたかの国はわたしの憧れだった。あれから40年近くの時が流れ、憧れだったアメリカからは近頃、良いニュースがさっぱり届かない。銃による事件や世界各国での武力介入は相変わらずで、中国と小競り合いを繰り広げ、コロナで医療の問題や格差、貧困、人種差別をはじめとする分断がより一層露呈した。
本作の中心人物であるデビット・バーンはイギリス生まれだが、子供のころに家族ともどもアメリカに移り住んできた移民だ。ステージを彩るパフォーマーも多国籍で、おそらくは性別も男性や女性に分類されない人が混在している。いろいろな出自の人々がひとつの目的に向かって高いレベルで「創造」していく様は、かつてわたしたちが憧れたアメリカの縮図で、ユートピアという題名は、アメリカのいまを少し皮肉っていて、でもユートピアになり得る可能性も信じていて、その両方を、音楽と舞台演出とデビッド・バーンの飄々としたキャラクターで、さりげなく、しかし希望的に表現している。
舞台パフォーマンスを映画にする試みにも賛辞を贈りたい。舞台撮影でありがちな何台かの固定カメラで撮影したものをスイッチングしているのではなく、非常に高性能な「目」で鑑賞しているかのような編集で、生で舞台を鑑賞することでは得られない臨場感と没入感を与えてくれる。事前情報なしで、トーキング・ヘッズやデビッド・バーン、スパイク・リーの作品を一切知らなくても楽しめる、とても元気になれる作品。