「ストレートに「情」に訴える物語」鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
ストレートに「情」に訴える物語
時は戦争の記憶がまだ生々しかった昭和31年。舞台は外界から孤絶したような山奥の哭倉村。一代で製薬会社を興し巨万の富を築いた龍賀家当主、 時貞が死ぬところから物語が始まります。本作の脚本の設定は横溝正史原作市川崑監督の「犬神家の一族(1976)」をそっくり借りています。
- 自分の影響力を後の世まで残したいという時貞の欲望
- 莫大な資産を少しでも多く引き継ぎたいという子どもたちの欲望
- 古い因習に縛られず新しい生き方をしたいという孫たちの欲望
- 龍賀製薬社長である克典に取り入って昇進を目論む帝国血液銀行のサラリーマン、水木の欲望
人間たちの欲望渦巻く哭倉村。そこに幽霊族の生き残りである「ゲゲ郎」がやってきます。彼の目的は行方知れずとなった妻を探すこと、彼の行動原理は「夫婦の情」と「親子の情」。欲望に支配された人間たちとは対照的に描かれます。戦争の帰還兵でもある水木は「ゲゲ郎」とのやり取りを通して正気を取り戻していきます。
徐々に住処を奪われ、人間たちに狩られて数を減らした幽霊族たちの姿を見て、かつて人類と同時代に存在していた旧人類であるネアンデルタール人のことを思い出しました。ネアンデルタール人はホモ・サピエンスより大きな脳と身体を持ちながら姿を消して行きました。我々の存在は、幽霊族やネアンデルタール人にとっては「災厄」だったようです。
欲望に振り回され正気を失う人間の姿と虐げられし弱き者たちの声なき声。そんな漫画が描ける漫画家は今後出てくるはずがありません。こんなにストレートに情に訴える物語はもはや、人類が主人公では描けません。
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