「口頭伝承」天才ヴァイオリニストと消えた旋律 MARさんの映画レビュー(感想・評価)
口頭伝承
1951年ロンドン。天才ヴァイオリニストと期待されるドヴィドルのデビューコンサートが開催されるも、当人は本番直前に失踪。親友のマーティンと父親は返金対応等ですべてを失ってしまう。
時は経ち、1986年。若き才能の審査員として働くマーティンの元に、ドヴィドルを彷彿とさせる少年が現れたことから、35年越しに親友を探す旅に出る…といった物語。
ミステリー要素を孕みながら、最初の少年を始めとし、ドヴィドルと関りがあった人々を辿っていく。中々好みの展開です。少年ドヴィドルがあまりにも生意気すぎて少々イライラ(笑)
マーティンはどのような気持ちでドヴィドルを探していたのかな。突然失踪した親友を想う気持ちか、或いは実子である自分以上に手をかけられていたにも関わらず、父親の顔に泥を塗ったことへの恨みか。きっといくつもの複雑な感情が絡み合っていたのだろうな…。
後半は哀しく切ない展開。遂に明かされる失踪の真相。
続くラビの歌声。ドヴィドルの祈るような表情が…。
もうここで終わってくれと願っていたかな。そして…。
時間はかかったものの、思いの外スンと出てきたのがちょっと拍子抜けしたことと、1986年…このころは個人情報保護とかそんなでもなかったのかな??あとは、ヘレン。ただ呆れているようで、実は見つかってほしくなかったのかな?
個々人の複雑な状況や信仰、思想が絡んでくるので、それぞれのキャラクターの気持ちを汲み取ることは難しいけど、ラビの歌や35年間の回想とのオーバーラップ、35年越しの借りのシーンは胸に迫るものがあった。
ドヴィドルは生き残った訳だが、失踪後の35年、そしてヨゼフのようなケースもあり、改めて戦争の犠牲者というのは多岐に及び、そしてあらゆるもの奪っていくのだなぁ…。
ドヴィドルのその後はわからないが、家族や亡くなった全てのユダヤ人への鎮魂歌を想い、その旋律を奏で続けていてほしいと願った作品だった。