「尊い犠牲の上に…」クーリエ 最高機密の運び屋 MARさんの映画レビュー(感想・評価)
尊い犠牲の上に…
1962年、キューバにソ連の核ミサイルが配備された所謂キューバ危機の裏で、核戦争勃発を防ごうと動いた諜報機関と、それに協力することになったセールスマンを描いた物語。
ソ連の大佐だが、激情型のフルシチョフの手中に核ミサイルがあることに危機を覚え、アメリカにその機密情報を渡すペンコフスキー。CIAとMI6は、この世界の危機に立ち向かう為、敢えて素人のウィンをモスクワに送り込もうと考えたことから物語は始まる。
題材が題材なだけに、もうちょっと緊張感が欲しいと思った序盤も束の間、中盤からは世界の存亡をかけた諜報作戦が静かに、それでいて熱く展開されていく。
今でこそ、皮肉にも「核があるから核が使われない」といった、一般的な考え(と言っては語弊があるかもだが)が持たれているが、60年代当時、目と鼻の先に自分たちに照準が向けられた核ミサイルがあるという状況は、人々にどのように映ったのだろうか。
何て言ったって、大統領がテレビで国民にこの事実を伝えていましたから。このあたりの緊張感は半端じゃない。緊急事態宣言…ってレベルじゃないですよね。勿論他国も他人事じゃない。
国を超えた友情が生まれ始めたウィンとアレックス(ペンコフスキー)。いよいよ感づき始めた国家。
地下駐車場でのやりとりのシーンは胸がアツくなった。
そして最後は涙が溢れそうになった。アレックスが守ったのは、世界だけでは無かったんですね。
キャスティングも素晴らしかったですね。個人的にはフルシチョフが良かった。少ない出番の中でも垣間見える怖さがお見事。
欲を言えば、海上封鎖とか、ミサイル撤去に至るまでの国家間の緊迫したやりとりなんかがじっくり観れるかと期待したけど、そもそもスパイ達に焦点を当てた作品ですからね。
キューバ危機と言えば概要は知っていたけど、紛れもない歴史上最大の危機。改めて恐ろしい出来事ですね。キューバの核は撤去されたけど、条件としてトルコのミサイルも撤去されたわけですから、結局はミサイル配備したソ連にプラスになった結果ということなのかな。
まぁそれを言ったらそもそもトルコに…って意見も出るし、この問題は本当に答えが出ないですね。
数々の尊い犠牲のうえに存在する現在の世界をみて、ウィンやアレックス達はどう思うだろうか…。
改めて深く考えさせられる作品だった。