「吊り橋を歩いたセールスマン」クーリエ 最高機密の運び屋 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
吊り橋を歩いたセールスマン
前半の軽快とも見えた緊迫感が、後半一気に重苦しい空気に変わってしまう。平和には、大きく悲惨な代償が必要とされるのだと言う感傷。
そしてシネマは、そこをよくテーマに取り上げるが、実際、何十億分の1かの奇跡に、世界は委ねられることもあるのだと言う悟り。この次の一瞬に、別のクーリエがしくじれば、世界が変わってしまうかも知れない。
当たり前だが、ロシア軍情報部の軍人と英国のセールスマンの決心は、天地ほどの隔たりがあった。
ニニッゼ演じる情報部高官は、その評価も分かれているようですが、核戦争の危機を誰よりも目の当たりにして、情勢に後押しされて腹を括った。「我がロシア軍」はもうヤバい。彼の情報の抜き取りや受け渡しは割にシンプルで、フィクション化=形式化されていたように思えましたが、クーリエと言うレシーバーを得て膨張した軍人の熱情は、静かだが迫力そのもの。
時折り見せる笑みが、命を捨てる覚悟を決めた武士のようだった。
一方のカンバーバッチ演じる腕っこきセールスマンは、要するにCIAとMI6に騙された男がでかいセールスの一つをこなすつもりで、情報の受け口になって、現代史の大役を果たしてしまったのですね。無論、ニニッゼの男気に呑まれた結果ではありますが。
それでキューバ危機を乗り越えられたと認識すれば、やはり世界の裏側の動きに、何も関われなくても、震えなさいと言うことになる。
飄々と淡々と役割をこなしながら、少しずつことの重大さに気づき、いや俺が渡っているのは鉄橋であって、絶対に吊り橋じゃないよなと、腹の中で静かに言い聞かせているようなカンバーバッチ。
その、時に落ち着かず、時に思い詰めた表情が秀逸だったと思います。