「文化人と野蛮人を分けるもの」沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
文化人と野蛮人を分けるもの
文化人と野蛮人を分ける一つの指標として芸術を楽しむ、解するがある。
文化を解さないとは人間性を失った蛮人なのである。
視野を広げれば、他者の文化に対する無理解にまで行き着き、人とは思えない蛮行を生み出す。
本作に当てはめるならばそれはホロコーストなのだ。
作品序盤、水の入っていないプールに並ばせられた者たちはサーカス団員のような服装だ。
ナチスが迫害したのはユダヤ人だけではない。身体的な不具の者や同性愛者なども迫害された。これはナチスの将校がどこかで教えてくれる。迫害されたのがユダヤ人だけではないことを扱う作品は意外と少ないので、これは良い。
話を戻すと、サーカス団員らしき者たちはおそらくそういった身体的不具の人たちなのだろう。彼らはあっさりと殺されてしまう。
サーカスも一種の芸術だ。つまり彼らは芸術の体現者だった。芸術の体現者はもちろん文化人に違いない。
物語を牽引する主人公マルセルは、自分を役者だと言い、パントマイムをする。
ナチスの追及を逃れるためだとしても、子どもたちには歌を教る。
マルセルは文化を伝播させようと努力する人、もちろん文化人ということになる。
ラストはマルセルのパフォーマンス。観るのは連合国の兵士たちだ。
戦場へ赴く兵士だとしても人間性を失った蛮人のような殺戮者にならぬように芸術を嗜む。
迫害される者と迫害する者を文化人と野蛮人として一貫させてラストまで持っていったのは良い。
表層的な物語は数多くあるホロコースト関係の作品と大差なくとも、この一点において独自性を生んでいる。
いくつかの良い言葉があり、そして、映画という芸術を愛する映画ファンとしては、芸術の話をされたら評価せざるを得ないのである。