「病気や障害をこんな風に描いていいのかなー、と思っていたら、現実の事件の方がもっと強烈だった、という一作。」RUN ラン yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
病気や障害をこんな風に描いていいのかなー、と思っていたら、現実の事件の方がもっと強烈だった、という一作。
Macのデスクトップ画面ほか、インターネットに接続されたウィンドウ上でのみでドラマを成立させた凄腕の演出家アニーシュ・チャガンティが、今回はインターネットを封印して作り上げたサスペンス・ホラー、というか「毒親」ジャンルの作品。
本作は予告編が示すように、我が子に傷害を負わせて献身的な親として振る舞うという、「代理ミュンヒハウゼン症候群」の一つの症候を取り上げています。同種の症候は、最近でも『IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。』(2017)や『ファントム・スレッド』(2018)でも登場しますが、本作の主人公、クロエの母親ダイアンはなかなか強烈。クロエの身体の自由が利かない、というところがさらに本作の緊迫感を底上げしています。精神的な症状や身体の障害を、娯楽映画を盛り上げる要素として記号的に扱った、という批判も出そうなところ、本作によく似た事件は実際に起きていて、それは『見せかけの日々(原題”The Act”』(2019)というタイトルでHuluで配信されています。こちらの実話の方が、フィクションである本作よりも、ある意味強烈だったりする…。
娘に対する愛情と憎悪がダイアンの行動をエスカレートさせていくけど、「それでも実の子に対する愛情ゆえなのでは…」と観客がちょっとでもダイアンに肩入れしそうになるところを、粉々に打ち砕いてくれるチャガンティ監督の設定の周到さというか底意地の悪さ。これがために観客は安心して母親を「敵認定」できるようになるのですが、その分映像的には非常に盛り上がる後半部分の緊張感が、少し失われてしまいます。非常に素晴らしい作品だけど、ここだけは惜しいです。
クロエが真実に気づく発端となるある「薬」を見て、「あ、『クイーンズ・ギャンビット』だ」と思ったけど、こちらの薬はさらに凶悪だった!