「軍人もまた犠牲者かもしれない」モーリタニアン 黒塗りの記録 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
軍人もまた犠牲者かもしれない
ジョディ・フォスターと私は同い年。トム・クルーズも同い年だ。
顔だけ見ると少し老けすぎた感じがするが、やはり彼女の演技には説得力があるというか、信頼感がある。あの、眼力だ。
ジョディ・フォスターとベネディクト・カンバーバッチが演じる二人の法律家が、法律家としての正義を追求する姿が凛々しい、事実に基づいた社会派サスペンス。
弁護士ナンシー(ジョディ・フォスター)は、9・11同時多発テロに関与した嫌疑で米軍に長期間拘束されているモーリタニア人スラヒ(タハール・ラヒム)の不当な拘束を訴える弁護人となる。
海兵隊の中佐スチュアート(ベネディクト・カンバーバッチ)は、大佐からサラヒを起訴して死刑判決に持ち込むよう命令を受ける。米軍の海兵隊には検事がいるらしい。
別々の目的と道程で二人の法律家が、キューバのグアンタナモ米軍基地のキャンプで行われてきた事実に近づいていくサスペンスのストーリーテリングが見事だ。
スチュアートは取り調べを記録したメモを、ナンシーはスラヒに書かせた手記を、それぞれが読み進む場面を二元中継で見せながら、フラッシュバック的に挿入されるスラヒの体験。
このシークェンスが本作の映像的な山場だ。
キューバのグアンタナモ米軍基地にある収容キャンプは、米軍が逮捕したテロ関係者を拘束・監禁している施設だ。
面会に訪れたナンシーが空港から乗り込んだバスの中で、「ここからは米国の法律は適用されない」と説明を受ける。
このキャンプは、今では違法拘束が問題視されているらしいが、この映画で描かれた訴えが契機となったのだろうか。
軍に拘束されているので、調書類は軍の機密文書であり、これを閲覧できる中立の施設がある。説明はあったと思うが、あれは軍ではない国の施設なのか、理解が追いつかなかった。
ここで限られた文書は閲覧できるが、主要部分が「黒塗り」でマスキングされているというわけだ。
スラヒが弁護士あてに書いた手紙も検閲で黒塗りされるから、スラヒは封緘テープの粘着面にメッセージを書くという裏技を使ったりする。
テロでハイジャックされた機上で命を落とした副操縦士は、スチュアートの友人だった。スラヒの取り調べを担当した軍の同期生も共通の友人だ。
開示されていないメモ(MFR)の存在をその同期生が明かさないため、ホームパーティーの場でスチュアートが問い詰める場面の二人の会話が重い。
同期の友人は言葉なく立ち尽くすこととなる。
そして、遂にスラヒ自身が裁判所に証言するクライマックスを向かえる。
事実を訴えることができる興奮と緊張が入り交じった感情をタハール・ラヒムが見事に表現している。
物語はサスペンスの終幕では終わらない。
テロップでその後の事実が説明され、我々は驚くことになる。
ナンシーがたどり着いた「軍の監禁施設がキューバにある理由」の結論が真実なら、なんとも恐ろしい限りだが、彼女の妄想だとは言い切れない。