劇場公開日 2021年10月29日

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「大国の隠された真実」モーリタニアン 黒塗りの記録 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0大国の隠された真実

2021年10月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画紹介には、法廷サスペンス・ドラマと紹介されていたが、これは、立派な社会派ドキュメンタリー・ドラマである。冒頭、「This is a true story」とあり、監督がドキュメンタリーでは定評のあるケビン・マクドナルドだけに、9.11爆破テロの容疑者として無実の罪で拘束された、モハメドゥの16年もの長きに渡る闘いを、見事に描いている。

9.11は世界に衝撃と恐怖に陥れた。当然、アメリカ側からしたら、躍起となってこの事件に関わった者達を取り締まり、犠牲者への報復を優先したのも理解できる。実際、ビン・ラディンが次第に追い詰められていく様子は、世界中が固唾を飲んで見守ったのも事実。

しかし、その裏では、こうした罪なき者への拘束や拷問を通して、裁判も受けさせないで、犯罪者へと祀り上げる魔女狩りのような事も行われていたことを、改めて知らしめる作品となった。また、それと同時に、国家ぐるみの恐るべき真実の隠蔽や陰謀が、実際に渦巻いていることに驚愕を覚える。拘束されたモハメドゥに対する、精神を狂わすほどの、拷問の数々。それに耐えて耐えて、耐えきれなくて、真実を曲げてまで強制自白させられた言葉…。あまりにもやるせない切なさと痛みが伝わってきた。

今回、モハメドゥ役のタハール・ラヒムは、多分、初めてスクリーンでお目にかかった。フランスを代表する俳優ということで、英語も流暢に話せるし、これからハリウットへの進出も楽しみな俳優だ。そして、何といっても、弁護士役のジョディー・フォスター。役柄、かなり顔の皺を強調し、年老いたビジュアルだったが、強く、諦めない、鉄の女としての健在ぶりは、『タクシー・ドライバー』から知る者として嬉しい限り。また、ベネディクト・カンヴァーバッチは、ジョディーと敵対する軍の検察側ながら、正義を貫くあたり、アメリカもまだまだ捨てたものではないことを訴えてくるようでもあった。

エンドロールで、国に戻り、自由を謳歌しているモハメドゥが映され、そのBGMにボブ・ディランの曲を流すのも何とも皮肉。しかし、彼が、「アラビア語では、自由と赦すは、同じ言葉」と言っていた言葉を象徴するようなシーンでもあった。

bunmei21
bunmei21さんのコメント
2021年10月31日

おっしゃる通りですね。あんなに酷い目に合ったアメリカ。その国の自由を代表するシンガー、ディランを歌うモハメドゥ。
この映画の訴えるものが、詰まったエンドロールでした。

bunmei21
NOBUさんのコメント
2021年10月31日

今晩は
 ”BGMにボブ・ディランの曲を流すのも何とも皮肉”
 同じことを感じました。
 自由の国アメリカに憧れていた青年が、無理やりネジクラレタ”ヴィン・ラディン”への復讐のターゲットにされてしまった事。
 切なさと共に、”真面な”法治国家は、もはやないのではと思いましたが、救われたのは、孤軍奮闘する人権派弁護士たち及び政府側だったベネディクトカンバーバッチ扮する中佐の勇気あるリーガルマインドにより、重き決断をする姿でした。では。

NOBU