「【見せないこと、JAWSの如し】」プロミシング・ヤング・ウーマン abuさんの映画レビュー(感想・評価)
【見せないこと、JAWSの如し】
女性の復讐劇でありながら、肝心なものを最後まで“見せない”。
そのノイズを抱えたまま物語は進み、観客の不安と想像力を煽る。
本作はエンタメ寄りのスカッと系リベンジではない。
“一人の女性にできる現実的な抵抗”として描かれるから、テンポはあえて抑制的で、カタルシスも最小限。
だからこそ、終盤の一撃が効く。そこに至る脚本の設計が見事で、静かな感動がある。
物語のトーンはダーク。
主人公の可憐さに一瞬復讐であることを忘れても、彼女は常に業火に焼かれている。
消そうとしても、自ら蒔いた火種がまた炎を呼ぶ。
どこかで引き返せなかったのか——そう思わせる“最後の分岐点”があり、その場面は残酷なまでに美しい。
同時に、この映画は「親の心、子知らず」を痛烈に描く。
もし娘が業火に呑まれたら、老いた両親はどれほど嘆くのか。
復讐に燃える子の愚かさと、親の温かさが対照的に浮かび上がるのは稀有だ。
弱者が背負う重圧を見つめながら、親子の愛情の差とギャップまで描き切っている。
“復讐より大切なもの”は、ずっとそばにあったのではないか。
見せない演出で想像を掻き立て、終盤で静かに胸を刺す、余韻の深い一本。
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