「プロミシング・ヤング・ウーマンから復讐(LOVE)を込めて」プロミシング・ヤング・ウーマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
プロミシング・ヤング・ウーマンから復讐(LOVE)を込めて
映画は最初のシーンで決まるとよく言うが、本作もまさにそう。
クラブで男たちが酒を飲みながら、女の事を話のつまみに。
ふと目をやると、泥酔した女が。ケラケラ笑う男たち。いかにもすぐヤレそう。
一人が女を誘い、ホテルへ。
女は嫌がりつつも、酔っている為、抵抗する事すら出来ない。
男にとって、これ以上ないご馳走。頂きま~す!
すると突然、女がシラフになって豹変。
「聞いてんだよ。何やってんだよ?」
監督が実際に目撃した現場が本作製作のきっかけ。
クラブで泥酔した若い女性を、男たちが嘲笑い。監督は女性を家に送りに…。
この時、もし男たちが女性が本当は酔っていなかったと知ったら…? どんな事が起こり、どんな結末になるか…?
…と、想像を膨らませたという。
誰もが気付きもしないような一コマ。特に男にとっては。
しかし、女性にとっては酷ければ心の傷になる。女性ならではの鋭く、シビアな視点。
それをパンチの効いたOPシーンとして描いたセンスと痛烈な風刺。
ここに、本作を作った意味合いが集約されている気がした。
でも、まだまだ! とにかく本作、色んな意味でブッ飛び!
女優や脚本家としても活躍し、本作で長編映画監督デビュー。才ある新たな女性監督がまた一人!
まさしく、“プロミシング・エメラルド・フェネル”!
カフェで働く30歳の平凡な女性、キャシー。
夜になるとバーに繰り出しては酔ったフリをして、自分をレイプしようとする男たちに制裁を与えていた。
…と言っても、殺しや暴力は一切ナシ。それも何だか本作の一つのメッセージのような気がした。
それでも不穏なスリラー・ムード充分。
OPタイトル・バック、クールな楽曲が流れる中の朝帰り、小バカにしてくる男どもへ一瞥を投げ掛ける彼女の姿が堪らなくカッコいい。
だけどやっぱり彼女はサイコ女…?
両親と実家暮らし。
両親は穏やかで優しい。娘を愛している。
部屋や普段着る服も、とても夜に毒女になるとは思えないほどキュート。ひょっとして、イタイ女…?
彼女も両親を愛しているけど、何処か窮屈そう…。
職場では、もはや仕事していると言うより暇を潰している感じ。
同僚のマディソンとは何でも言い合える仲。二人のやり取りがユーモラス。
そんなある日、医大時代の同級生ライアンと再会。徐々に惹かれ合って…。
スリラーから一転、コメディ、三十路女の恋物語。
しかし再び夜になると、スリラーへ。
ジャンル分け不能。
かと言って支離滅裂バラバラに全くなっておらず、見事な面白さの異色ヒロイン物語に。
この大胆不敵さ、オスカー脚本賞も納得。
そしてそれを体現したキャリー・マリガン。
『17歳の肖像』『華麗なるキャツビー』などで可憐なヒロインのイメージがあるキャリー。
大胆イメチェン!
覇気が無いような、ノーメイクのような三十路女。
“夜の顔”はケバく、恐ろしく!
その堂々たる凄み!
単なるクレイジー・ウーマンに留まらず、喜怒哀楽を巧みに。全ての感情が際立つ大熱演。
残念ながらオスカー主演女優賞は『ノマドランド』のフランシス・マクドーマンドに敗れたが、やっと本作を見て、個人的には彼女推し!
フェネルの才能とキャリーの怪演。
ポップでカラフルなファッション、明暗メリハリくっきりの映像。
作品を彩る楽曲の数々。
だけど一番はやはり、先読み出来ないストーリーの面白さ!
そもそも、何故キャシーはこんな恐ろしい事を…?
徐々に徐々にその秘密が明かされ、グイグイ引き込まれてもいく。
ライアンと再会した時、大学時代、医大生だった事が分かったキャシー。
将来は有望でもあった彼女…。
自室には、一枚の写真。自分と、もう一人の女性の姿が…。
ライアンとの会話から、特定の同級生の現在を聞き出す。
一人一人に接近。同級生ではなく、学長や弁護士にも。
その目的とは…
かつてキャシーには親友がいた。
ニーナ。
優秀で、地味なアタシと違って魅力溢れる存在。
でも二人で、“プロミシング・ヤング・ウーマンズ(前途有望な若い女性たち)”。
そんなある日…
酔った彼女を男どもが食い物に…。
告発したけど、大学は無き事に。
今、学長を問い詰めたら、“プロミシング・ヤング・マン”を擁護。学長も同じ女である筈なのに…。
弱く、日陰の女二人の事など誰も味方してくれない。学長は覚えてさえもいない。
そうだ。教えてあげる。ニーナは自殺したんだよ。
“プロミシング・ヤング・ウーマン”だった彼女が。
どうでもいいの? 彼女の事は。
酔って男にレイプされたのは彼女自身のせいなの?
男どもに罪はないの…?
絶対に許せない!
キャシーが夜な夜なバーに繰り出しては男に制裁を与えるのは、親友を自殺に追いやった“男たち”への復讐。
核心たる人物らに近付き、そして本当の復讐劇へと発展していくのだが…。
ニーナの母親から悲劇の事は忘れるよう忠告される。
亡き友やその家族を今も尚思う事は胸打たれるけど、時にそれは遺族や自分自身の時を止め、苦しめる。
両親からの心配。
ライアンとの出会い。
今が人生を変える時かもしれない…。
…しかし!
知ってしまった。
ニーナのレイプにまつわる衝撃的な真実。
思わぬ人物が関わり…。
この人物に関しては言うまでもないので、言う必要ないだろう。
平凡な幸せを手にしようとしていたけれど、その手は復讐に。
哀しい話かもしれないが、皮肉な事に、作品的にはその方がずっと面白い。
結ばれる筈だった“思わぬ人物”を脅迫し、“主犯”の現在の居所を聞き出す。
そいつは結婚を控え、プライベートや仕事共々恵まれたこれから。友人らと森林のハウスでバチェラー・パーティー。
医大生であったキャシー。ナース姿に身を包む。まるでそれは、亡き親友の無念も込めた戦闘装束のようだ。
怒りと悲しみを表した派手なヘアメイク。さながら、女ジョーカー。
遂に、この時。復讐。
関係ないバカ男どもはデリヘルナース嬢が来たと大ハッスル。
睡眠薬で眠らせ、ターゲットのアルを2階の部屋へ。
意外と紳士的でフィアンセ一途なアル。だからと言って許すつもりは微塵も無い。
どうせ忘れてる筈だからアルの方から思い出して貰うわ。
ニーナの名で名乗る。すると案の定、ビビり始める。
ニーナが自殺した事も知っていた。
じゃあ、彼女の無念は…?
アルが暴言を吐き出す。自分たちのような将来有望視されている男たちの前に於いて、女たちの告発は邪魔。
これで決定的に決定した。このクソ男に制裁を!
頭脳と言葉巧みに、沸き出す怒りを抑えつつも代わりにネチネチと追い詰めていく様は、痛快!…いや、怖い?
ハリウッドの男尊女卑。
セクハラ/パワハラ事件から始まった“#MeToo運動”。
今でこそ声を上げ、闘う女性たちが続く。
ほんのひと昔前までは、映画の中ではヒロインは悲鳴を上げ男の助けを待ち、ハリウッド社会では女性は隅に追いやられ、酷い場合は劇中のニーナのような立場にも…。
徐々にハリウッドに於ける女性の地位向上が尊重され、それは映画にも。
男社会と闘う女性の社会派ドラマは古くからあるが、アクション物…特にアメコミ物でヒロイン・アクションが盛んとなり、女性が監督が務めるまでに。
そんな中現れた本作は、これまでにない斬新さと、メッセージ性を含みつつ、エンタメ性も抜群。
パワフル・ウーマン・ムービー!
復讐を果たす時が!…と思いきや、
まさかの展開。
嘘でしょ…。
だけど、どんな理由であれ“復讐鬼”の哀しき末路。
救いようがない男の愚かさ。
一体、どんなオチに…?
最後の最後まで予測が付かない。
最終幕。
それぞれにとって、幸せとモヤモヤ凝りの結婚式。
復讐もあの時で…。
否! 終わっていなかった!
最後の最後に用意していた逆転リベンジ!
女性は怖い。
女性は強か。
女性は美しく。
女性は愛おしく。
世界中のプロミシング・ウーマンズへ。
復讐からの愛を込めて。