「70‘sに百花繚乱だった復讐映画の系譜に極めて現代的で辛辣な風刺を重ねるずっしりと重いトラジコメディ」プロミシング・ヤング・ウーマン よねさんの映画レビュー(感想・評価)
70‘sに百花繚乱だった復讐映画の系譜に極めて現代的で辛辣な風刺を重ねるずっしりと重いトラジコメディ
昼はカフェで働くキャシーは夜な夜なバーに出かけては泥酔しているふりをして近寄ってきた男達の誘いに乗っかってここぞという瞬間に制裁を加えることを繰り返していた。彼女は元医大生だったが親友のニーナが同級生にレイプされ起訴したものの相手にされず絶望の末に自殺してしまったことで心が折れてしまい退学したという過去を持っており、彼女の制裁は彼女なりのリベンジであった。そんな折カフェを訪れたのがかつての同級生で小児科医のライアン。最初はつれなく接するキャシーだったが爽やかで実直なライアンに少しずつ惹かれてデートを重ねるようになったものの、バーでお持ち帰りされそうになっているところを
たまたまバーにやってきたライアンに目撃されてしまい・・・。
というようなプロットだけ見ると『狼よさらば』の影響を色濃く感じますが、笑えないトラジコメディという意味で大昔に日曜洋画劇場で観た『二つの顔を持つ女/整形美女の復讐』にものすごく似ています。そんな70年代前半に百花繚乱だった復讐映画の系譜をなぞりながら辿り着くテーマは極めて現代的で辛辣なもの。“将来を約束された若い女性”に襲いかかる災厄に加担する者達一人一人と対峙し敢然と戦いを挑むキャシーの怒りの矛先は同性に対しても向けられる。すなわち彼女が戦いを挑んでいるのは現代社会そのものであり、その復讐行脚には終わりがない。ライアンとの出会いで頑なだった心を少しずつほぐしていくキャシーが復讐を続けるか新しい人生を始めるかで悩んでいるところに知らされる真相が章立てで展開する復讐譚のカウントダウンに僅かな異変をもたらし、その後の展開に思わず目を剥きますが、カウントダウンがまたカタンと音を立てた後盛大に始まる狂宴には壮絶なカタルシスが詰まっています。オスカー5部門ノミネートも納得のパワフルな作品、今まで甘い汁をどこかで吸ったことを忘れてノホホンと生きている怠惰なオッサンの顔面に平手打ちを食らわす作品です。