「日本の「今ここにある危機」」茜色に焼かれる 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
日本の「今ここにある危機」
現実にあった事故をなぞらえた理不尽な交通事故により、夫をあっけなく亡くした主人公。中学生の一人息子を育てるため、さらには亡夫の父親の老人ホーム代を払い、亡夫の愛人の子供の養育費まで払うため、昼はホームセンターのパート、夜は風俗嬢として働く。
社会の理不尽さ、コロナ禍の閉塞感、薄ら笑いに象徴される他者への共感力の欠如といった、日本の「今ここにある危機」が描かれている。
「まあ、頑張りましょう」という主人公の口癖は、自分の感情に蓋をする呪文に聞こえる。居酒屋で風俗の同僚ケイに、自分の思い、怒りを噴出させるシーンには、胸を揺すぶられる。
出演者だけでなく、行き交う人々が皆マスクをしているという、今の日常でありつつ、将来振り返ってみたら異様な姿が、劇映画として作品化されたことが貴重。
映画としては、後半の、息子の純平がケイに憧れ、主人公が幼なじみの熊木と出会うあたりから、雰囲気が変わり、軸がぶれる感じはある。撮りながらシナリオが出来上がっていった面はあるのだろう。ユーモアを交えだすのは、石井裕也監督らしいとも言える。
尾野真千子の憑依ぶりはもちろん、片山友希の真摯さ、永瀬正敏の味わいも印象に残った。
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