劇場公開日 2021年5月21日

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「まぁ、頑張りましょ…ってハナシよ」茜色に焼かれる kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0まぁ、頑張りましょ…ってハナシよ

2021年6月17日
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鑑賞方法:映画館

平日の夕方、貸し切り状態の劇場で観賞。
石井裕也監督、「青色」の次は「茜色」か。

尾野真千子がアッパレな体当り。

事故の加害者側が謝らないから賠償金を受け取らないとか、夫が外で作った子供の養育費を夫の死後も払い続けるとか、普通できることではない。
頑張りましょ…の範疇を越えているのだが、尾野真千子演じる田中良子は頑張り続けるのだ。
息子の純平(和田庵)が母の行動の意図を図りかねて、やり場のなさから貧乏ゆすりをする。
ところが、その癖は母親譲りだったことが後に分かる。
居酒屋でケイ(片山友希)相手に遂に思いの丈をぶちまけた時の尾野真千子の貧乏ゆすりには凄みすらあった。

これは、強烈なキャラクターである田中良子が主人公だが、「いい男」の少年とダメな大人の男たちを対比して我ら男の観客に突きつける、男のための映画だった。

市営住宅の家賃が安いのは税金のお陰…だとするとそこで暮らしている人たちは税金から生活費を得ていることになるのか?
中学校の不良先輩に言われたことを純平が気にするのも分かるが、恥じることはない。
あの不良たちにそういうことを吹き込んだ大人がいるはずで、子供たちのイジメは結局のところ大人たちの価値観が産み出しているんじゃないか!
教師が態度を一変させるほど純平は高い学力の持ち主だった。
頭がいいなら純平は将来偉くなって、あの不良たちの上に立つ存在になってほしい。
そうなっても、きっと純平は彼等を見下さず、手を差し延べるんだろうな…

「純平くん、いい男」とケイに言われなくても、彼は彼女を本気で守りたいと思っていた。でも、中学生の男の子なんて、社会ではたいした力はない。シータを守るパズーになんかそうそうなれないのだ。
純平の悔しさや無力感こそが、男の子が男の子である証。我々かつての男の子の胸にしみるではないか。

一方で、良子の周囲の男模様はある意味辛辣だ。
死んだ夫(オダギリジョー)だけがファンタジーで、ほかの男たちは皆リアルでダメだったり悪だったりな男たち。
よくもまぁ、これだけダメ男のパターンを並べられたものだと思う。
そして、このダメ男たちのどれかに自分が当てはまりやしないかと胸に手を当てたなら、まだ心がある証拠かな?

♪また一つ、女の方が偉く思えてきた。
♪また一つ、男のズルさが見えてきた。
(by河島英五)

kazz
グレシャムの法則さんのコメント
2021年7月12日

talismanさんに同感❗️
素晴らしいレビューですね。
賠償金を拒絶するなんてバカなことを…
と思う時点で自分もズルい男なんだと思い知らされます。
生活を維持していくための客観的な判断と好きな男を思うが故の直情的な思いを貫くことを対比させた演出は見事ですね。映画の世界でないと伝えられない清々しさだと思いました。

グレシャムの法則
talismanさんのコメント
2021年7月9日

kazzさんのレビュー最高です。二人とも貧乏ゆすりしてましたね。純平のことも含めて泣きつつ笑いました。死んだ夫、なんなんだよと思いました。でも?だから?接続詞がわからない。田中良子と息子の純平は立派です!

talisman