「【不条理極まりない世の中、強い愛を抱える女性が”マア、頑張りましょう。”と芝居をしながらも、人としての筋を通しながら生きる姿を描く。現代社会への警句も盛り込んだ石井裕也監督の手腕にも、脱帽した作品。】」茜色に焼かれる NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【不条理極まりない世の中、強い愛を抱える女性が”マア、頑張りましょう。”と芝居をしながらも、人としての筋を通しながら生きる姿を描く。現代社会への警句も盛り込んだ石井裕也監督の手腕にも、脱帽した作品。】
ー 今作には、虫けら以下の男が多数、登場する。だが、田中良子(尾野真千子)は、そんな彼らや様々な不条理を抱える世の中を”芝居の上手な”彼女は”マア、頑張りましょう・・”と言う言葉を頻繁に口にしながら、生きていく。激烈なまでに愛した男の13才の息子純平(和田庵)と共に・・。ー
<Caution! 以下、一部内容に触れています。>
◆冒頭、画面の右端に斜めに、”田中良子は芝居が上手だ”と言うテロップが流れ、物語は始まる。
・田中良子が激烈に愛した男(オダギリジョー)は、7年前に元官僚が起こしたブレーキ踏み間違いの事故で、自転車に乗っている最中轢き殺される。
ー その官僚の葬儀に呼ばれてもいないのに訪れた良子の言葉、
”何故、彼は30歳で殺されたのに、殺した相手は天寿を全うして、夫の葬儀とは桁違いの立派な葬儀で送られるのか・・”
”謝罪の言葉を一言も言われていない・・。”
遺族たちの迷惑そうな顔。遺族が雇った弁護士(嶋田久作)は、これ以上関わると警察沙汰にする・・、と良子に警告する。
似たような、事件が近年あったな・・。人を殺した側がいつの間にか、被害者になっている・・。格差社会の歪みも描いているシーンである。ー
・田中良子は貧しい仲、昼はホームセンターで、夜は風俗で働く日々。
ー ホームセンターの若き店長らしき愚かしき男。ルールを守れと頻繁に良子に言いながら、本社から来た上役に指示され、上取引先の娘を入社させるために、30日前通告をせずに解雇を伝えるシーン。ここでも、世に蔓延る不条理が描かれる。ー
・良子が働く風俗に来る虫けら以下の男達の姿、言葉。
・夫のバンド仲間の男(芹澤興人)に、夫の命日にセクハラまがいの事をされても、作り笑いをしてやり過ごす姿。
ー 愛した男の友人だから、我慢したのだろうか・・。ー
・中学時代の恋仲だった愚かしき男クマキに、一時的に惹かれてしまった背景は、キチンと描かれているし、クマキに対しての怒りの理由も・・。
◆だが、彼女の世に対する姿勢は揺れ動きながらも崩れない。
夫を殺した官僚の”謝罪の言葉を伝えない”息子らしき男からの賠償金は
”汚れたお金だから・・”と受け取らず、
亡き夫と愛人との間に生れた非嫡子の子には養育費を払い、
亡き夫の父親の介護施設費用も全て、自分で働いたお金で賄う筋の通った生き方を貫いているからであろう。
何より、愛した男の息子純平には、”芝居をしながら”夫の口癖、”トップのトップを目指せ”と激励しながら、苛めに遭っている息子を守ろうと、学校に乗り込む姿。
・・あれは、モンスターペアレントではない。息子を守るための彼女の筋を通した行動である。・・
そこで、担任から告げられた、純平が全国トップクラスの頭脳を持つ事を知った時の良子の驚きと一拍置いた後の嬉しさを隠しきれない、誇らしげな表情。
”激烈に愛した男との間に出来た自分が全力で守って来た息子は、本好きの父の血を引いた、聡明な子だったのだ!”
<風俗の同僚、哀しき女性ケイ(片山友希)との間に友情が育まれていく過程の描き方。風俗店の怪しげな店長(永瀬正敏)の漢気にも、痺れた作品。
何よりも、良子の母としての息子への全力の無償の愛、世の不条理に屈しない気概と気高さを貧乏ゆすりをしながら維持する姿を、圧倒的な演技で魅せた尾野真千子さんには、敬服する。
勿論、冒頭のテロップの入れ方や、夫をひき殺した官僚の弁護士が、最後良子の弁護側になるという現代社会への皮肉も盛り込んだ脚本を手掛けた石井裕也監督の手腕にも、脱帽した作品である。>
レスありがとうございます。自分もこの茜色に焼かれるを見に行きたいと思います。後、いのちの停車場、明日の食卓、サンドラの小さな家、ミナリ、ノマドランド、SNS少女たちの10日間等、格差、デジタル化、人権問題等を考える作品が世界中の映画で多くなっています。今後もよろしくお願いします。
NOBUさん、いつもお世話になっております。
賠償金3500万円の部分はいらだちも覚えてしまいましたが、それも彼女の生き方なんでしょうね~
逆に考えれば、元官僚が過失運転じゃなく殺人だと世間に訴えるほうが社会派テーマになったとは思うんですが・・・やっぱり、難しかったんでしょうね。
それよりも80歳以上は免許返納!
死亡事故は起こさなくても、だいたい車は傷だらけになってるものです。