「事実は小説よりも奇なり」鳩の撃退法 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
事実は小説よりも奇なり
佐藤正午の作品の面白さを、脚本と演出によって、巧みに映像化している。時間と場面、そして登場人物が交錯して、少し複雑な内容となるが、前半から様々な伏線をバラ撒いて、それらを後半に回収し、最後まで飽きさせない展開となっている。極道絡みの作品ではあったが、最近、鑑賞した『孤老の血』や『ドント・ブリーズ2』等の裏社会に視点を当てた、過激なバイオレンス作品とは一線を画し、利巧的な作品へと仕上がっている。
というのは、やはり設定において、小説の世界と現実の世界を融合させた作品としている点にある。観ているシーンが、どちらの世界なのか、常に考えながら観ることを求めてくる。しかし、それでも「?」は残るが、最後には、しっかりと回収してくれて、「なるほど、そういうことだったのか」と納得させる巧みな演出となっている。また、ラストシーンも意味あり気ではあったが、決してイヤミスでなく、ホッと胸を撫で下ろすエンディングへと導かれる。
ストーリーは、落ちぶれた元直木賞作家の津田伸一が、新たな小説を編集者の鳥飼なおみに読ませたことから始まる。その内容は、偽札と一家疾走事件絡みの極道ミステリーだった。しかし以前に、書いてはいけないことを小説にしたことで訴えられ、文壇から追放された津田であっただけに、今回もノンフィクションでないかを、鳥飼が小説の舞台を訪れて確認する。その結果、今回も津田が巻き込まれている、危険な現実を描いていることが判明し、津田の身にも命の危機が迫っていく。
主演の藤原竜也は、安定感はあるが相変わらず『藤原竜也』を演じている。その中で、バラエティーの印象が強い風間俊介の演技が、真に迫るものがあった。特に大御所の豊川悦治との対峙シーンも、決して引けを取らず、堂々と渡り合っていた。また、このところよく、スクリーンでも顔を見かける西野七瀬も、なかなか存在感のある演技で、若手女優として、今後も注目したい。
正直、タイトルである『鳩』は、偽物という意味なのだろうが、『鳩の撃退法』というタイトルにした意味が、今ひとつピンとこなかった。でもそれが、佐藤正午作品らしさなのかもしれない。