「保険金と情熱」カムバック・トゥ・ハリウッド!! sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
保険金と情熱
B級映画『尼さんは殺し屋』が大ゴケし、窮地に立たされた映画プロデューサーのマックス。
しかも、出資者でもあるギャングのレジーは35万ドルの返済を彼に突きつける。
何とか金を工面しようとマックスはかつての弟子であるジミーを訪ねるが、条件として彼が所有する最高の脚本を売り渡さなければならなくなる。
泣く泣く脚本をジミーに譲渡するマックス。
だが、その映画の撮影中に主役俳優が事故により亡くなってしまう。
するとプロデューサーであるジミーのもとに多額の保険金が支払われた。
そこでマックスは撮影中に死亡事故を起こし、保険金を手に入れるという悪知恵を思いつく。
再びレジーを説得し元手を手にした彼は、死にたがりの往年の映画スター・デュークを担ぎ出す。
何とも不謹慎な幕開けである。
特に映画スターが落下して死亡する場面で、笑顔を隠せないマックスの姿にはゾッとする。
こういうダークなアメリカンコメディは良し悪しが大きく分かれるが、個人的には中盤からの盛り上がりが良かった。
死にそうで死なないデュークが面白い。
馬に跨ることすら覚束ないのに、馬上から吹っ飛ばされても、崩落した吊り橋に巻き込まれても無傷で生還する。
しかもマックスの思惑に反して映画の出来は素晴らしい。
彼は忘れかけていた映画への情熱を取り戻し、作品を完成させるために尽くそうとする。
こうなるとマックスの案に乗じて出資したレジーの存在が邪魔になってくる。
痺れを切らしたレジーは自らデュークを殺すために乗り込んでくる。
が、映画のラッシュを観て一気に作品の虜となってしまい、作品の完成を心から待ちわびるようになる。
彼もまた映画をこよなく愛していた男で、初心を取り戻したのだ。
それは現状に絶望していたデュークも同じである。
こうして映画は無事に完成しハッピーエンドを迎える。
出だしが不穏だっただけに、最後は清々しい気持ちになれた。
また1970年代が舞台ながら女性監督が起用されるなど、今のハリウッドを象徴するような作りでもある。
芸達者なのにどこかポンコツな馬のバタースコッチもいい味を出している。
『尼さんは殺し屋』だけでなく、『マイダーリンはビッグフット』や『戦慄の殺人ガスバーナー』など目眩のするようなミラクル映画社のラインナップも面白い。
何気に馬に蹴り飛ばされても、爆風で吹き飛ばされても死なないマックスが一番謎ではあった。