「園子温にしか撮れない映画」エッシャー通りの赤いポスト Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
園子温にしか撮れない映画
映画のオーディションに出る人たちを描いてくのね。詩的な映像が多くて面白く観てるの。みんな面接に呼ばれて喜ぶところとか共感して。面接会場でみんなの事情が順番に明らかになって。
それで、みんな受かるのかなと思うと、ほぼ落ちるのね。まあ、しょうがないよね。逆に受かった三人に対しては「良かったねえ」って。どんなスターも、こういう風に普通の人だったところから、合格の電話を喜んで受けて階段のぼってったんだろうなあって。
ところが! 大人の事情で全員落とすんだよね。切ない。キレて帰る応募者にスタッフが「本当に申し訳ありません」って止めて謝ろうとするんだけど、双方の気持ちが分かって切ない。自分のやりたいようにやれない監督も切ない。
でも「そういう業界だよな。ここでキレるのとキレずに恩を売るのとどっちが良いんだろう」って思って観てた。
落ちた人もみんなエキストラで撮影に参加するの。ここでも撮影側とエキストラ側の感情が分かって、理不尽さが胸に染みる。
そこに安子が来るんだよね。「あんたは、行く必要ない」って切子を止めるところからカタルシスが始まって。モニターの向こうから片子が「小林」と語りかけるところは息が止まりそうになった。
この二つ、めちゃくちゃカッコいいシーンなんだけど、普通にやったら、物語から浮くはずなの。でもカッコよくいれてくる園子温はすごい。やたら河原で転がったり、切子に「アイアイサー」って言わせたりしてるんだけど、何がカッコいいのか分かってる。だから詩みたいな映像も決まる。
ストーリーはけっこう園監督の実話も入ってるんだろうなって思って観てた。
「園子温がいいな。こう軽い感じでさ」って《新宿スワン》とか《リアル鬼ごっこ》のとき言われてたんじゃないかなとか。ラストも「『東京ガガガ』ってこんな感じだったのかな」という渋谷ゲリラ撮影で終わるしね。
普通のドラマとは全く違う構成だし、なんだか分からないけどそれをまとめてカッコよく観せてくれる。園子音にしか撮れない映画。本当はレビューなんか書いても読んでもしょうがない。映画館で観た方が良いよ。